第7話 異世界の神話

 レリ、レオ、テオ。二文字の呼び名の人が多すぎて混乱しそうだと僕は思う。

 食事を大皿から少しずつ貰いつつ、レリの方に向かう。


 僕がレリに話しかけ、神話について聞くと、レリは少し長くなるよと言いつつ、快く話してくれた。





 世界の礎たる二神。混沌の男神ケイオスと秩序の女神エイドスは、交わり、この世界の全てを産んだ。しかし、生命を産むことは出来なかった。


 二神は世界の創生によりその身を削られ、その役目を終わらせるとき、この世界を司ることを願って一柱の神を産んだ。


 一柱は自らをステイと名付け、この世界の永続を願って命の半分を砕き、そのうちの小さい欠片達を動物に、大きい欠片達を神とした。


 神々は、初めはステイの言いつけを守り、森羅万象の支配者としてこの世界を管理したが、ステイが年老い、力を失うと、自由気ままに振る舞うようになった。



 後に僭主と呼ばれるようになった陸の神エクスは、ステイを殺し、その力を奪い取った。


 エクスは最高の美神と呼ばれた海の女神ソフィアと結婚し、大量の子を成した。


 エクスとソフィアの子が、人間である。


 エクスの振る舞いを見て自由を知った神々は、自分たちそっくりな人間達と交流を始め、ときには交わり、子を成した。


 子を成した神は力を失い、人間と同じように生き、そして死んでいった。



 軍神ハスと一人の娘の子、半神半人のノリスは、僭主エクスを倒し、平等な世界をもたらした。


 ノリスは主のいない世界の平等を保つため、宗教を作った。

 これが現在のノリス教会である。

(ノリス教会は教皇を頂点とする、世界最大の宗教:アウレリウス注)


 半神半人のノリスに世界を支配されるのを恐れた神々は、各々で国を建て、ノリスの妨害を繰り返した。

 神々の妨害は功を奏し、ノリスは市民によって処刑された。


 しかし、ノリスが死のうともノリス教会は残り、平等な世界を作り上げるため、神々を討伐し、国々を神から開放した。


 神々が全ていなくなったとき、世界は真の平等を迎えた。



「まあ、ノリス教会の神話がだいたいこんな感じ。エクスとノリスの戦いなんかも事細かに覚えてるけど、特に重要なくだりじゃないから割愛したよ。それじゃ、次は僕の、…エウクレイア国の神話を話すね。」




 古い冥界の神、冥帝アイタはエクスの教師であり、忠臣であったが、ステイの討伐に反対したことで流刑になった。


 アイタの送られた島はニュクス陰鬱と呼ばれ、アイタにとってはとても過ごしやすい場所だった。


 自分の予想と違い、島でくつろぐアイタのことを知ったエクスは、島の環境を変え、明るくし、また、名前も変えてエウクレイア栄光とした。


 環境の変化に耐えられなかったアイタは、窓のない神殿を作り上げ、そこから出てこなくなった。


 アイタが神殿の中で長い時間を過ごす間、エクスはステイを殺し、古い考えを持つ神々を殺した。

 しかし、神殿から出てくることのないアイタを殺すことは出来なかった。


 エクスは残った唯一の古い神であるアイタを神殿から外に出すために、数多くの女性をエウクレイアに送った。

 アイタが色を好むことをよく知っていたからだ。


 しかし、女性はエウクレイアの幸せな生活に馴染み、島に来た目的を忘れた。



 あるお転婆な女性は島の中を駆け回り、ある日、窓のない神殿を見つけた。


 女性が神殿に話しかけると、神殿は、去れ。と一言だけ答えた。


 神殿が寂しそうだと感じた女性は、毎日のように神殿に通い、そして話しかけた。


 女性が神殿を見つけてから四十二日が経ち、大雨の中、女性は神殿に向かい、そして話しかけた。

 神殿は何も答えなかった。

 アイタは毎日のように神殿に来るこの女性を鬱陶しく思ったのだ。


 女性は半日の間、神殿に話しかけ続け、ついには疲労で倒れ、寝入った。


 アイタは女性を神殿に入れ、雨の中で死ぬことのないように、その身を守った。


 新月の夜になり、神殿の内外が分からないほどに暗くなったとき、アイタは女性を彼女の家へと返した。



 その次の日からも、女性はアイタのもとに通った。

 アイタも女性のことを悪しからず思い、話をし、ときには神殿に入れた。

 女性はいつも暗闇を怖がっていたが、神殿の暗闇の中では一切の恐怖を感じなかった。


 アイタと女性は恋に落ち、神殿の中で色々なことをした。



 ある日、女性を探しに一人の少年が来た。

 それは女性の弟のようであったので、女性は外に出ようとした。


 その少年がエクスの変わり身であると気づいていたアイタは女性を止め、自分が代わりに外に出た。


 アイタは残酷に殺された。


 エクスがアイタの声で呼びかけ、他の親しい人の声で呼びかけても、女性が神殿から出ることはなかった。


 女性はアイタの子を身篭っていた。




「その子供が僕だ。一応神話はこの後にも続いているけど、まあ、僕の自慢話みたいになるからしないよ。」

「してもしなくてもいいが…もしかして、もうこの世界に神はいないのか。」

「いや、実はケイオスとエイドスは今も生きてるんじゃないかと言われてる。」

「なんで?」

「神がいない世界がこんなに長くつはずがないからさ。一説によると、君の住んでいた異世界の神が、ケイオスとエイドスに力を分け与えたらしいよ。」

「それはどうして分かるんだ?」

「分からないよ。だから一説でしかないんだ。真相は神にしか分からないし、神を捨てた僕らには、もう神の言葉は降りてこない。」


 そう言うと、レリは空になった皿を持って円卓の方に歩いていった。

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