第3話 選択、そして───
「もし、もう一度あの人に会えるなら、あなたはどうしますか?」
突然、ライトノベルの一文のようなことを言ってきた。ただでさえ美月に別れを告げられるとかいうおかしな夢なのに、これ以上おかしくならないでくれよ。
「あなたには、会いたい人がいますね。」
やはりこの夢は狂ってる。俺はおかしくなってしまったのかもしれない。美月が死んだからってこんな御伽話みたいな夢見るとかメルヘン少女かよ。早く覚めてくれ。
「そういう夢見がちな少女みたいな話は間に合ってます。他を当たってください。」
そう言うと女性はとても悲しそうな顔をした。その顔は何故かどこか懐かしさを感じさせた。そして女性はまた口を開いた。
「本当の気持ちに蓋をしていませんか?正直になってください。聞きますから。」
そんなことない。俺は会いたい人なんていない。
美月が死んだ今、会いたいやつなんている訳がない。
「会いたいやつなんていない!!本当に会いたい相手は死んだんだよ…」
俺は柄にもなく取り乱してしまった。とても深い、言葉では表せないほどの生傷を抉られたんだ。
「故人でも大丈夫ですよ。どうしますか?」
「は?」
俺の思考が完全に沈黙した。
死人と会えるなんて、俺は冥土にでも行くのか?そんなおかしな提案を聞いた俺は顔を顰め、長考する。長い沈黙の後に俺は重い口を開き、問いかける。
「本当に、また美月に…会えるんですか…?」
「はい。お互いの気持ちが通えば再び出会うことが出来るでしょう。」
それが条件か。美月がどうかは分からないけど俺は今すぐにでも会いたい。選択する余地もなかった。
「わかりました。お願いします。」
俺がお願いをすると、その女性は胸の前で手を合わせた。
「a/@#a)ai_'i:~aa:iaii'o」ao@iia!n*%es」
女性は突然、その意味のわからない呪文のようなものを口にし、女性の手が光ったかと思えば、次は霧がより濃く深くなり、1センチ先も見えないほど濃い霧がかかった。しかし、しばらくすると少しずつ霧が晴れ、俺の前に大きな門のようなものが現れた。
「この門を通れば、あなたに今1番会いたい人物に会えるでしょう。」
その言葉を聞き、俺は重い足取りで少しずつ前へ進む。そして、門の前に立ち、門を見つめる。意味のわからない文字が沢山書いてあった。そして俺は覚悟を決め、門に向かって語りかける。
「今から行くぞ。美月。」
俺は思い思いに扉に手を触れて、重い重い扉を開けた。
─────
目が覚めると、いつも通りのベッドでいつも通りの朝を迎えたという現実が待っていた。日付も時間も何もかも変わったことはなかった。
「知ってる天井だな…」
やっぱりあんなの夢だよな。死人に会えるなんてあるわけないし。なんて変な夢見てんだ、俺。美月に会えると一瞬でも信じた俺が馬鹿だった。
「それにしてもあの女の人、誰だったんだろ。」
きっと昔あったことのある親戚とか知り合いとかが俺の記憶から掘り起こされてふらっと夢に出てきたんだろう。
「太陽、起きなさい。遅刻するわよ〜」
俺の妄想はそんな声に遮られた。母さんだ。いつもは美月が起こしてくれていた朝が、美月がいなくなったことにより母が代役を務める。いや、それが普通なんだよな。今までが、美月に起こしてもらう方がおかしかったんだ。もう、そのいつもが戻ってくることもない。
「もう、美月はいないんだな。」
受け止めきれなかった現実。
悔やんでも悔やみきれない後悔。
そんなクソみたいな世界に打ちひしがれた昨夜。
「………はぁ。」
正直、俺はまだ美月の死を受け止めることはできない。それでも切り替えるしかない。もうそんな世界が確定してしまったのだ。某アニメのようにタイムリープ出来れば、また、別の某アニメのように白いやつが魔法少女の契約を取り付けに来るのであれば、美月を助けるために、泥でも靴でも舐めよう。だが、そんなに現実は甘くない。そんなファンタジー要素がこの世界にあったら今頃大騒ぎだ。
「太陽〜?いつまで寝てるんだ。」
ん?さっきとは違う声。この声…母さんじゃないな。父さんでもない。でもどっかで聞いたような…
誰だ???
ガチャッ。
扉が開く音がした。俺はその音の先に目を向けた。
目の前にいるのはずのない人物が現れ、俺の体は金縛りにあったように動かなくなった。
「おい、太陽。起きろ。」
「は───え?」
「どうした太陽。そんな通り魔に刺されたみたいな顔して。」
「なんで………」
「なんでって、今日から同じ高校に通うんだから当たり前だろ?寝ぼけてんのか?」
俺は幻覚を見ているのか?何故お前がここにいるんだ。いるはずがない。いて欲しくもない。ずっと俺を縛り付けていた、ずっと俺の憧れだった、そして嫉妬していた張本人だ。……美月の初恋の相手だ。
俺の前に姿を現したのは、立っていたのは、美月ではなく、1年前に病気で死んだはずの俺の兄、光輝だった─────
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