新天地
ガタガタと馬車が揺れながら道を進んでいる。舗装されてはいるがそれでも揺れを完全に抑えるのは難しい。
帝国が目前まで迫っている。遠くからでもわかるぐらいに大きな城。そして,それを囲むような巨大な城壁。
(凄いな… )
馬車が近づくに連れて,その関門の大きさに圧倒される。
「凄いな…これは。入ったら、買い物でもしようか」
「ん。賛成! 楽しそう」
セレネも心なしか,興奮している
「賛成です!」
人化しているシルビィも喜んでいる。
そうしているうちに,馬車が関門へと到着したようだ。門番が荷物の検査と,身分証を確認している。
「次の者。 身分証を出してくれ」
「身分証と言うほどではないが,これで代わりになるか?」
そう言って,ギルド長が書いてくれた紹介状を見せる。
「…ッ! 失礼しました。お通りください」
すんなり通ることができたので,まず宿へと向かう事にした。ここの帝国は階級ごとに住む場所が分かれている。
市民、低級商人は関門に近く、貴族→軍人→王族となるごとにより,中心部へと居住域が展開されている。
俺たちが今いるのは商業区。つまり街の外側だ。
とは言えど,帝国自体が大きすぎるため,広すぎて回るのが大変なくらいだ。
辺りを見渡してみると、特産物や果物、食べ物…
ダンジョン産の武器、はたまた、装備なども売っている。
商店街特有の雰囲気を楽しみつつ歩いているとふと目に止まるものがあった。
“帝国名物 ミール! 甘くて、ジューシー! 帝国に来たなら食べなきゃ損!”
といった謳い文句で売られている
果実とも野菜とも見えるそれは、大きさは直径5cmで白色だ。
そんな僕達に気づいた店員の女性がが話しかけてくる
「貴方、帝国へ来たのは初めて? あ、自己紹介がまだだったね。私の名前はミレーヌ。こ~んな可愛い子連れちゃって 隅に置けないわね! 名物のミール食べていかない?甘いし、シャキシャキしていて美味しいわよ」
ハキハキと喋る女の子は、髪を三つ編みに織り込んだ赤髪の美少女だ。
「そういう事なら、3つ貰おう」
帝国の特産物がどれほどの物なのか試しに食べてみるのも面白そうだ。
「毎度あり! 帝都は食べ物も美味しいからせっかく来たなら楽しんで行きなさいね。私のおすすめは、燻製肉のボローニャと、細かく砕いた氷の上に、凍らせた果実を乗せて、シロップをかけたフローズがおすすめね!」
「ありがとう。 せっかく帝都に来たんだし、食べてみるよ」
「ええ! 彼女さんにもちゃんと美味しいもの食べさせなくちゃ」
ニヤニヤとしながら、セレネの方を見る。
「あぁ。そうだな」
俺も当然セレネに美味しいものは食べさせてあげたい。そう考えに耽ていると……
「あぁん? 舐めてんのかおいこらっ! この方は由緒ある名家、ベルガモット男爵であるぞ! このクズ平民がっ!」
「も…申し訳ございません。ですが、1度届いた品物は返金できないというルールですので…」
怒声と謝罪の声が響き渡る。罵声の発生源の男を見てみる。身長150cm程で、髪の毛は無く眼鏡をかけている。
いかにも、選民思想の強そうな貴族と言った感じだ。
「舐めてんのかッ… このカスがッ!こんな不味いものに金なんて出せんわ!はぁはぁ……、おいそこの女……さっきから何見てるんだ? ははぁん……さてはこの ベルガモット・ヴェン・サヴェット様に抱いて欲しいのか? 良い良い。こっちへ来い」
何を勘違いしたのか、ミレーヌに対して
「そうは言われましても…」
「おいお前ら。こいつを捕らえろ! 儂が躾というものを教えてやる」
「「「わ、分かりました…」」」
ミレーヌに誘いをキッパリと断られ激怒したベルガモットは、部下に命令させ捕らえようとし始めた。
部下がミレーヌを捕えるよりも先に、俺が手刀で気絶させた。
「な、何をしておる馬鹿者がっ! 」
状況を把握出来ていないのか、顔を真っ赤にして激怒している。
「おい,あれをよこせ」
「かしこまりました… ベルガモット様」
側近の部下がベルガモット男爵に長剣を手渡す。受け取った剣を数回素振りするとこちらへ向き直る
「このゴミ共が。儂が女諸共殺してやるわ!」
――――――――――――――――――――
名前:ベルガモット・ヴェン・サヴェット Lv57
職業:長剣士
HP:3250
MP:0
力:1270
防御力:780
俊敏:500
精神:300
装備:長剣
スキル:・飛斬→斬撃を飛ばす。
・二段切り→2回相手を切りつける
・断裂剣→相手の武器破壊効果(大)、クルティカル率(極大)
――――――――――――――――――――――――
ステータスを確認してみたが,正直なところ雑魚だ。スキルはまあまあ強そうだが,話にならない。
「死ねやァ! 飛斬っ!」
「あいにく,飛んでくる斬撃はもう対応済みなんだ」
そう。幼馴染であり,聖騎士のウィリアが使った飛ばす斬撃。
攻撃自体は見えないものの,殺気に意識を向ければ避けるのも打ち落とすのも容易い。
「なぜ当たらんッッ! くそっ、くそぉ。 飛斬、飛斬,飛斬」
一度慣れてしまえばこちらのものだ。避ける。魔剣で撃ち落とす。
「死ねやゴミ!飛斬…二段切りッ!
断裂剣ッツッ‼︎」
飛斬を撃ち落とし、二段切りをタイミングよく弾く。
断裂剣を魔剣で受ける。
「何故ダァ!? 何故武器が壊れんッ!」
「それをお前に教えるわけないだろ? アホか」
種明かしをすれば,魔剣に不壊というスキルがついているおかげなのだが,それをいう必要もない。
――――――――――――――――――――――
【名前】魔刹剣 ヴェル 〈武器覚醒+I〉
・【不壊】
→武器破壊系スキル・魔法を無効化する。
・【斬撃研磨】
→攻撃によって、切れ味が僅かに上昇する。
・【共成】
→持ち主と共に成長する。持ち主が得た経験の数%を吸収する。
――――――――――――――――――――――――
こうなれば,女共を殺してやる!
「血走った目で,斬撃をあたりに飛ばし始めた」
「きゃっ」
逃げようとした女の子が転んでしまう。
「目障りなガキだなぁ…死ねッ!」
女の子は転んだまま立ち上がれない。怖くて足が動かないようだ。斬撃が女の子の体を切り裂く直前、斬撃が
「死ぬのはお前だ」
奴の斬撃を撃ち落とすのは間に合わないので収納し、奴との距離を詰める。
そして,体術〈極〉を発動させる。
鳩尾に一撃。うずくまった所を脇腹に一撃。そして,顔面に膝蹴りの追撃。最後に,横っ腹を蹴り飛ばす。
人のいない所を狙って蹴り飛ばした為、数回ほどバウンドした後に痙攣して動かなくなった。
(あかん。殺したかも)
後悔先に立たず。すぎてしまったことは仕方が無い。いくらこいつが貴族とは言え市民に攻撃をしたのだ。こちらの言い分も聞いてもらえるだろう。
ちょうど憲兵団の兵士たちがこちらへ駆けつけた所だ。
「話は通報者から聞いている。だが,君をこのまま帰すわけにもいかない。悪いが,少しの間取り調べに付き合ってもらおう」
「分かった」
「あまり口を大きくして言えないが,市民を守ってくれてありがとう。本来ならば私が速く駆けつけたかったのだが、貴族相手となると迂闊に動けないんだ」
「感謝は素直に受け取っておこう。戦闘したのは俺だけで、2人は加担していない。俺だけでもいいか?」
「君1人で問題ない。ご協力感謝する。それでは着いて来てくれ」
(色々と長くなりそうだな… 取り調べ終わったら,買い物にでも行かなきゃな)
「セレネ。シルビィ。俺は事情聴取受けてくるから先に宿に向かっていてくれ。買い物なり好きにしていていいぞ」
「…ん。のんびり待ってる」
「ピュイ! 〈私もセレネ殿とご主人様の帰りを待っているのです!〉
「じゃあ,また後でな」
長くなりませんように。と願うばかりであった。
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