#6

ここは昼も夜もない。あんなに暑かったのが嘘みたいに、世界が凍りつくほど寒い。鯨が太陽を遮っているせいだ。

そして、爆撃音。これは自衛隊が2週間前からクジラを攻撃しているのだが、鯨はどういう訳か傷一つつかず、効果はほぼゼロに近い。


今日はあさひと街に出かけた。

バイトで少し遊べるくらいのお金が貯まったから。


まず始めに服屋に行った。

「ねえ星夜君、これどうかな?」

「うん、とっても似合ってるよ」

あさひはなにを着てもかわいいと思うのは俺だけだろうか?

「じゃあ、この色とこっちの色、どっちがいいかな?」

「俺は水色の方が好きかな。」

「うん、じゃあこっちにする!」

あさひは服を選ぶのにかなり時間をかけた。楽しそうに服を見てるとやっぱり女の子だな、と思った。そんな事を考えながら待っていると、「星夜君、これ似合うと思う!」と言ってあさひが黒いパーカーをもってきた。

結局あさひにはワンピースとコート、俺は黒いパーカーを買った。

新しい服を着て2人で街を歩く。太陽が消えても、ネオンが街を輝かせていた。あさひと手を繋いだ。彼女の手は、温かかった。そういえば手袋を買うのを忘れてたな。


それから俺たちは映画を見に行った。AIチップが発達した今でも、映画館の人気は絶えない。大きなスクリーンに本格的なスピーカーで迫力のある映画を、友達や家族と見る。その楽しみはいつの時代も変わらない。

今話題になっている日本で初のAIが脚本、監督をてがけた映画を、2人で一つのポップコーンを食べながら見た。ロボットと人間の恋を描いた作品で、悪くなかった。もしかしたら、AIはもっと良い作品を作るかもしれない。このまま世界が続けば、の話だが。

あさひがすごく面白かったと喜んでいたので、俺も嬉しくなった。


小腹が空いたので、ファストフード店に行った。

あさひは幸せそうな顔でチーズハンバーガーを頬張っている。彼女は何かを食べる時いつも幸せそうに食べる。

ポテトをつまみながら、2人で映画の感想や取り留めのない話をして笑ったりした。今日少しの時間だけでも、“普通の高校生”みたいになれたんんじゃないだろうか。


最後に、2人で本屋に行った。この前行った図書館で気になる本があったらしい。

数少ない本屋は大分遠いところにあるから、電車で向かった。そういえば、電車に乗るのは何年振りだろうか。

本屋には面白そうな本がたくさんあり、どれを選べばいいのか分からなくなりそうだった。迷っていると時間があっという間に過ぎてしまい、あさひの「星夜君まだ?」という声ではっと我に帰った。結局、本もあさひに選んでもらった。


帰りの電車は遅い時間だからか空いていて、席に座ることができた。しばらく揺られていると、疲れたせいか、あさひが俺の肩に寄りかかって眠ってしまった。あさひの体は温かかった。体は骨ばっているが、呼吸をするたびに動いていて、それが何故か俺をドキドキさせる。それにしても、幸せそうな寝顔だ。俺は彼女のことを幸せにできているのだろうか。


“家”に帰ると、あさひは満足そうな笑顔を見せた。

「あ〜、今日は楽しかった!映画もハンバーガーも久しぶりだったよ。死ぬ前にいい思い出ができたね。ありがとう、星夜君!」

「、、、そうだな。」

あさひの言葉に世界は確実に終わりに向かっていて、俺たちもまた死に向かっているのだと、改めて気付かされた。前は生きるとか、死ぬとか、どうでも良かったのに、今じゃあさひともっと生きていたいと思うようになってしまった。


空を見上げた。そこには月も星もなく、ただ遠くに街の灯りが煌々と輝いているだけだ。

(#6終わり)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る