#4

今日はバイトが休みだ。だから、あさひと図書館に行くことにした。鯨の謎を解くためにだ。AIチップが普及した今、本の需要はほとんどなくなってきている。そのため、図書館もだいぶ数を減らした。だが、偶然にも近くに図書館があったのだ。


図書館に入ると、やはり人はほとんどいなかった。受付のカウンターで本を探している女性が一人。

その人は俺たちが入ってきたのに気づいて、こちらを振り返る。振り返ったままずっとこっちを見ている。

「、、、星夜君?」

「え、、はい、、?」

女の人は早足でこちらに向かってくる。

「星夜君だよね。私のこと、覚えてる?」

「え、いや、、、」

そう言われればどこかで見たような、、、

「5年2組の担任だった斎藤です。星夜君が学校に来なくなって本当に心配したのよ。」

そうか、彼女は俺のクラスの担任だった先生だ。5年生になって初めて学校に来た先生だ。

「隣にいるのは、、、あさひさん?」

「はい」

「え」

なんで斎藤先生はあさひのことを知っているんだ?

「そうか、星夜君は分からなかったかもね。あさひさんは5年生の時に転校してきて、隣のクラスになったのよ。」

「知りませんでした。」

「私も知らなかった、、、まさか星夜君と同じ小学校だったなんて、、、。」

もしかしたら、小学校で彼女とすれ違っていたかもしれない。

あの時の俺は精神的に余裕がなくて、多分、転校生が来たことすら分かっていなかったと思う。

「とにかく、2人とも無事で良かったわ。」

そう言いつつも、彼女のあさひを見る目がどこか冷たいのに、俺は気づいている。


図書館にはパソコンが数台置いてあった。なので、俺は本を探し、あさひはネットで手掛りを探すことになった。

やはり、最近は電子書籍版しかない本がほとんどなので、鯨に関する本はなかなか見つからない。

適当に世界の終末に関する本を読んでいると、あさひが何か見つけたらしい。


それは、一昔前の動画サイトの動画だった。備え付けの1つのイヤホンを2人で使って動画を再生する。

動画に動物の仮面を被った男が現れた。



『約20年ほど前、突如上空に現れた鯨。最近、その鯨が地球に落ちてくると言われ、再び注目を集めています。今回は、その鯨の正体について解説していきます。』


『まず、鯨についてですが、十数年の間研究者が研究してきましたが、その正体は未だに何ひとつ分かっていません。何処から来たのか、なぜ来たのか誰にも分からないのです。

ただ、分かっていることは体長2万9千キロメートルもの巨大なシロナガスクジラのような生物だということだけです。

これについてですが、研究者たちも、最新の科学技術を使ってもその正体が解明できず、非科学的な存在なのではないかとの噂もある程です。』


やはり、というべきか、鯨についての詳細は分かっていないらしい。


『ということで、ここからは鯨の正体に関する幾つかの説や噂などを見ていきましょう。

これは最近になって言われ始めたものですが、今一番信じられているのは鯨は人類を滅ぼすために地球周辺に現れたという説です。特にキリスト教圏では神が使わした使者という説も信じられています。

ここ数年、毎年のように世界規模の大災害が起きたり、疫病の蔓延が何度も起こったことを考えればこの説が支持されるのは自然のように思えます。

それ以前は鯨は地球を侵略しに来た宇宙生物という説が一番有力でした。


では、なぜ鯨は人類を滅ぼしに地球に来たのでしょうか。

それにはヒトの営みが引き起こした環境問題などが関係しているのではないかという噂が広まっています。例えば、地球温暖化、大気汚染、海洋プラスチックゴミ問題、生物の絶滅や生態系に及ぼした影響などです。

また、人間同士の醜い争いが神の怒りを買ったという説もあります。たしかに、ここ数年国際情勢は安定しているといえない状況でした。鯨が現れる前は今よりももっと酷い状況でした。それこそ、すぐに戦争が勃発するかもしれないという具合に。鯨の出現により一時は落ち着きましたが、また各国の関係は悪い方向に進み始めました。

それから、先程述べた2つよりは支持が薄いのですが、人類がAIを開発したせいだという説もあります。今では私たちは脳に埋め込んだAIチップに頼り切った生活をしています。それは本来ヒトが営み続けていた、考えて、工夫するという在り方に背いているので処罰されるという反トランスヒューマニズム的な考え方も支持されています。


これら3つの説や噂をまとめるとするならば、これらに共通しているのは人間のエゴが関わっているというところでしょう。自らの文明の発展のために環境を破壊したりするなどのエゴが人間らしさを奪い、そして破滅に向かわせたといったところではないでしょうか。』

(#4終わり)

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