#3
バイトと言っても大した仕事ではない。昔で言う“店員”の仕事は全てAIがやってくれる。だから、俺らの仕事はAIの監視と管理、不具合が起きた時に必要な手順を踏む。それだけだ。
しかし、それを今まで店長一人でやっていたらしい。だから、勤務時間以外にもAIチップで監視していたらしい。その為、常に機械のことを気にしていて、夜寝ているときに異常が発生して、夜中に店に駆けつけることもしばしばあったという。
「星夜君になら一人で店を任せても大丈夫そうだね。もう安心だ。これで夜もゆっくり眠れる。」
まだ始めて一日目なのに、こんなことを言われてしまった。
結局この日は何事もなく仕事が終わった。
店長は今すぐお金が必要という事情を理解してくれて、バイト代は毎日少しずつ手渡ししてくれることになった。本当に彼には頭が上がらない。
「じゃあ、これが今日の分ね。」
そういって彼は封筒に入ったお金を渡してくれた。今日はほとんど何もしていないのに、もらってしまっていいのだろうか。
でも、これで二人分の食料が買える。あさひに、もうひもじい思いをさせなくてもいいんだ。このまま少しずつ稼いでいけば、二人で一日三食も夢じゃないかもしれない。
そんなことを考えているうちに、目に涙が滲んできてしまった。
バイトが終わったので、今日の食料を買って“家”に帰ろうとしたとき、店長に声を掛けられた。
「良かったら、俺の家に泊まっていかないか?俺の家、狭いけど外で寝るよりはいいと思うんだ。俺、一人暮らしだし。」
「ありがとうございます。お気持ちは嬉しいのですが、俺の帰りを待ってくれている人がいるので。」
そう、俺にはあさひがいるのだ。彼女は今も“家”で俺のことを待ってくれているんだ。
「お帰り、どうだった?」
帰ると、ガリガリに痩せてしまったあさひが笑いかけてくれた。でも、その目線は、俺が持っているコンビニのレジ袋に釘付けだ。
「ただいま。ご飯、買ってきたよ。」
そう言ってレジ袋を掲げてみると、空腹で死にかけていた目が、一瞬で輝きを取り戻した。
「ふむうぅぅぅぅ~!おいひい~~!」
コンビニのメロンパンを頬張るあさひは、とても幸せそうだ。
相当お腹が空いていたんだろう。彼女はものすごい勢いで袋の中のご飯を食べていく。明日の分もと買っておいたのだが、もう全て無くなってしまいそうだ。
「ああ、幸せだ。こんなにお腹が一杯になるまで食べたの、久しぶりだよ。ありがとう、星夜くん、、、」
結局明日の分を残さず、袋の中身は空になってしまった。明日もバイトがあるので、多分大丈夫だろう。
彼女の喜ぶ顔を見るとこっちも嬉しくなってしまう。なんだろう、この胸が満たされていくような感覚。彼女の笑顔のために明日も頑張ろうと思えた。
見上げた鯨は、以前より大きくなっていた。
バイトを始めてから二週間が経過し、この生活にもだいぶ慣れてきた。今日は夜勤のシフトが入っている。夜中に女の子が一人だと危険なので、あさひには店の外に居てもらうことにしている。
パソコンのモニターでロボット達の稼働状況を監視する。今のところ、何の問題もない。少しウトウトし始めた時、店の外が少し騒がしいのに気づいた。
もしやと思い、外に飛び出す。
あさひは柄の悪そうな三、四人の若い男に囲まれていた。
「コイツ、河川敷のホームレスの女じゃないスか?」
「あーw、たしかに、どっかで見た顔だと思ったらw」
「社会の底辺が、こんなところうろついてるとか、マジで迷惑なんですけど~w」
「社会のお荷物が。邪魔なんだよっ!!」
腹を殴られたあさひが倒れこむ。
「やめろっ!」
俺はあさひの前に飛び出した。
「星夜、くん、、、」
「おうおう、俺らの邪魔をするとかいい度胸だなw」
男達はへらへらと笑いながら続ける。
「コイツ、河川敷で女と一緒にいたホームレスっスよw」
「もしかしてカップルw?ホームレス同士お似合いだねwマジうける~w」
「てゆうか、ホームレスが働いてるコンビニで物とか買いたくないんスけどw」
「へえ、彼女を守ってヒーロー気取りかよ、底辺のくせにww」
「ゴミの分際で、俺らの邪魔をするんじゃねぇ!!」
顔を殴られてその場で倒れこんでしまった。
「星夜くんッ、、!」
「あさひ、、、、」
次に腹を蹴られた。夜に笑い声が響く。
奴らは罵詈雑言を浴びせながら、殴り続けた。
貧弱な身体の俺は、抵抗できるはずもなく。
親父にも同じことをされた。だから、慣れている。決して声を出すな、歯を食いしばって、じっと耐えろ。
慣れてはいるのだが、、、
あさひに、こんな姿見せたくなかったな、、、
情けないという感情が頬を濡らした。
一通り暴行して、満足したのか、それか飽きたのか、奴らはどこかへ行ってしまった。
「星夜くん大丈夫⁉、、、血が出てるよ、、」
「大丈夫、だ、、。それより、あさひ、、ケガは?」
「私は大丈夫だけど、、。ごめんなさい。私、何もできなくて、、、」
「こっちこそ、こんな情けない姿見せちまって、悪かったな。」
あさひの手を借りて何とか店に戻った。
そして、朝出勤してきた店長を驚かせてしまった。
(#3終わり)
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