三破風館

 後期作品。最後となる第五短編集『シャーロック・ホームズの事件簿』収録作。原作が後期のものというだけでなく、グラナダ版ドラマとしても後期の作品。

 原作の書き込まれていない部分を補うかのようなドラマに仕立ててあります。

 前回、「未婚の貴族」のドラマ化での原作からのアレンジ箇所を厳しく言った翌週にあれですが、本作のアレンジは筆者は好意的に受け止めております。

 見所は、依頼人の老婦人宅のメイド。鼻息(呼吸)が荒いという彼女が実にいいです。呼吸音を入れる演出も、日本語で声をあてる俳優さんの演技もお見事。

 このメイドとホームズが会話を交わすシーンでは鏡が効果的に用いられています。

 一見、メイドとホームズが一対一で向き合っているだけの絵に見えますが、二人の間、画面中央の鏡に二人のやり取りを見ているワトソンと依頼人の老婆の姿がうつっているのです。

 オープニングの闘牛を模した舞踏から、牛を演じた青年のドラマが描かれるのも魅力的。原作はこのあたりがやや弱い印象。

 青年が事件と繋がるある小道具の使い方はドラマオリジナルですが、うまい。

 オリジナル要素ですと、今回、ワトソンが武闘派な一面を見せます。あ、ハドソンさんも勇猛果敢な姿を見せてくれます。



【ネタばらし見所解説】


 原作はホームズ譚にしばしば登場する「奇妙な儲け話」。「赤毛連盟」みたいな始まりから、恋愛の悲劇に繋がります。

 過去の奇妙な儲け話ものと違うのは、うまい話をもちかけられた人物が賢いこと。

 大金を積むから館を譲り渡せという話を断るのです。

 謎の中心は、犯人一味が館ごと買い取ってまで欲しいものはなにか。

 この解、答えも見事。

 首謀者の資産家の女も、その手先どもも、ドラマオリジナルのホームズに情報を提供する男(ドラマでは恐喝王ミルバートンを引き合いに出して自らの正当性を一席ぶちます)も、とにかくキャラクターが濃いです。

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