ボスコム渓谷の惨劇

 オープニングは走る馬車のシーンから。日本語版ではよく用いられるワトソンのナレーションで事件の概要が語られます。

 ボスコムの沼地でチャールズ・マッカーシーが殴られて死にます。犯人として逮捕されたのは、息子のジェイムズ。最初は警察に協力する形で捜査に関わっていたホームズたちですが、やがて事件関係者の一人、アリス・ターナーから依頼される形で、ジェイムズの無罪を晴らすために奔走します。

 見所は沼地の美しい風景。そして、筆頭容疑者ジェイムズとアリスの恋物語の行く末でしょう。そういう構造ならば、どうせジェイムズは冤罪で、最後にはアリスと結婚してめでたしめでたしなんでしょう、という声も聞こえてきそうです。

 そこはご覧になって確かめて下さいとしか言えません。

 被害者は死ぬ前に「ねずみ(a rat)」という謎のメッセージを残します。この解明は子どもの頃は「おぉ」となったのですが、大人のミステリマニア、それもカクヨムさんでミステリガイドめいたものを投稿するまでになった身としては、ちょっと物足りない。しかし、グラナダのドラマ版では解明の見せ方にひと工夫してあり、「おぉ」となりました。これは映像でやったほうが効果的。

 映像的なトリックで言えば、鍵のかかった箱を開けるために、錠の部分を銃で撃って壊すシーン。実際に実弾で錠を壊すのは意外と難しいはず。これはドラマなので、最初から鍵のかかっていない箱に向かって空砲を撃って、あたかも銃撃で錠を壊したかのように見せる演出がしてあります。もちろん、カメラの角度も計算して。

 詳しくは書けませんが、ホームズが手にした紙を焼くシーンがあります。これ、ホームズ役のジェレミー・ブレットは熱かっただろうな、と。「オーケー、はいカット」の声がかかった直後の映像が残っていれば、見てみたいものです。

 後はラストシーンですね。スタッフロールが流れているときのバックの映像が素敵です。細かくは後ほど【ネタばらし見所解説】で触れます。日本語版もいいのですが、ノーカットのグラナダオリジナル版のほうが「あるカット」がカットされていない(妙な言い回しになりました)ので、よりよく感じます。





【ネタばらし見所解説】






 前半で「どうせジェイムズとアリスは結ばれるんだろう」と意地悪く書きました。正解です。ジェイムズは無実。ラストでは無罪放免されたジェイムズがアリスのもとに向かいます。庭園でアリスと再会したジェイムズ。重大事件の容疑者となったことで形式上結婚していた妻から離婚され、晴れて独り身に戻ったジェイムズはアリスに結婚を申し込みます。

 ホームズ譚では、たまに重婚の問題がでてきますが「ボスコム~」でも重婚の要素が影を落としています。

 求婚を受け入れて、二人は歩き出します。二人を後ろから映し出すのがスタッフロールの背景の映像なのです。よく見ると、二人は一度、左右の位置を入れ替え、以降は距離を縮めて寄り添うように歩いていきます。

 グラナダのオリジナル版では、少しですが二人を後ろからではなく、前方からとらえたカットがあるのです。表情が見えて素敵です。

 被害者チャールズ・マッカーシーは脅迫者で、息子をアリスと結婚させて、アリスの父親で大地主であるジョン・ターナーの莫大な財産をわが手にしようとしています。なかなかの悪党。マッカーシーは沼地で倒れている時間のほうが長いくらいで、あまり生きている場面は登場しません。わずかな登場シーンだけで悪党の顔をしているのは、さすが。まぁ、これは筆者が真相を知っているからバイアスがかかっているのかもしれません。

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