四人の署名
グラナダ版ドラマでは初めて長編を扱います。製作陣も気合が入っていたのか、セットやロケ地にも手間ひまかけている感じがします。
過去にNHKで放映されたときは、45分という放送時間枠の問題もあり、長編を二回に分割しての放映でした。私の手元にあるDVDには日本語版とオリジナル版の二つのバージョンが収録されています。日本語版は二回に分割されていて、前編のラストには後編の次回予告も入っています。
この「映像で味わうホームズ」という企画は、NHKのBSでドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」が放映される水曜21時の直前、22時45分に更新しています。ドラマを見てもらいたいという狙いがあります。通常、このドラマは一時間の放送枠なのですが、今回は枠を拡大して一挙、放送のようです。
オープニングはドラマ版ではお馴染みともいえる“後に正体がわかる主要登場人物が怪しげな行動をしている”というシーンから。前作「六つのナポレオン」とは違い、今回はアクションもなく、さらりと静かに始まります。
場面は変わり、ベーカー街には依頼人がやってきます。今回の依頼人はメアリ・モースタン。ホームズファンならば、もうピンときているでしょう。まだネタばらしをしないで解説をする箇所なので、詳しくは書きませんがシリーズの重要人物です、モースタン嬢は。若く美しいという原作の設定どおり、とてもきれいな役者さんが演じています。ベーカー街から去るシーンで、馬の鼻をなでる姿が印象的。
モースタンの父親は謎の失踪をしています。あるときからモースタンの誕生日に真珠が贈り続けられます。誰がなぜ真珠を届けているのか。失踪した父親は生きているのか。こういったあたりから、物語はスタートします。
今回のキーパーソンは、ずばりワトソン。原作では特に。ドラマ化にあたり、アレンジがされています。そのあたりも見所でしょうか。
映像的には最初に書いたように凝ったセットと、気合いの入った屋外ロケのシーン。事件の鍵を握る怪しい人物、ショルトーの屋敷の異国情緒満載な雰囲気など、とてもよくつくられています。また今回はさまざまな場所が舞台となるのですが、ここはきちんとロケで撮られています。
ショルトー兄弟のビジュアルも含めた怪演もインパクトに残りますし、初登場ベーカー・ストリート・イレギュラーズの面々も賑やかですが、最も優秀な演技をみせたのはトビーでしょう。
【ネタばらし見所解説】
前半部を受けて書きますと、トビーは犬です。犯人を追跡し、駆け回るトビーとトビーを追うホームズ&ワトソンの姿は今回の見所の一つ。川での追跡が大きな見せ場ということもありますが、今回、水辺のシーンが多いです。船から岸辺から、さまざまなアングルでカメラは二人(と一匹)の活躍、そして、イギリスという街をとらえます。
もうネタばらしをする部分なので書きますが、モースタンに惚れてしまうワトソンを細かくカメラがとらえていることにも注目したいです。原作ではかなり早い段階で「なんて素敵な女性なんだ」「いや、だが負傷して健康でもなくお金もない自分には不釣合いだ」などとグラグラするワトソン先生。グラナダドラマ版では、こういった恋愛感情あたりは抑え目に(あるいはカットして)描かれます。
ラストにホームズはベッドに寝転がりながら「そうか、それは気付かなかった」などと口にしますが、原作を知っているファンは随所でワトソンがモースタンに好意を持っているという演技をさせていることに気付くでしょう。
また、今回の犯人(といっていいのでしょう、一応)スモールも、きちんと悪人ではなく、筋を通した人物として描かれているのも好感をもてます。
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