六つのナポレオン

 子どもの頃、大好きだった作品です。次々と壊されるナポレオン像という謎にワクワクしました。

 タライに入った水をスポンジに吸わせて、窓辺で汗を拭く女性をうつすところからスタート。暑いときの出来事という設定なのはわかりますが、これ要るかなぁ、と首を捻ります。

 ところがここからのカメラワークというか、撮影の仕方が見事。カメラが汗を拭く女性から引いていくと隣(向かい)の家の窓辺に立つ男性の姿をとらえます。次にカメラは滑るように移動し、口論をしている男女をうつします。そこへ画面(カメラ)の枠の外から先ほどの男性が姿をみせて言い争いをとがめます。

 最初の窓辺の女性のときからケンカの声はずっとしていて「なにが起きているんだ?」と視聴者の興味をひく手法です。いきなり口げんかする男女の姿はうつさないのですね。

 言い争いをしていたのは兄妹で仲裁に入ったのは父親だということがセリフのやり取りで示されます。もちろん、このくだりはワトソンの手記という体裁である原作にはない場面です。

 兄は家を飛び出し、馬車を捕まえてある場所へ向かいます。ここから緊迫の立ち回りシーンがあり、やっとホームズ登場。

 今回、嬉しいのはレストレードの出番が多いところ。

 カメラワークで印象的なのは、ワトソンの語りで連続ナポレオン像破壊事件の振り返りがなされる際、犯人の目とカメラが一体になったかのように像に近づく演出。視聴者を犯人の位置に置くわけですね。さらにうまいのは像が砕けた後、画面の奥の扉から被害者(像の所有者)が出てくるところ。


【ネタばらし見処解説】


 なんといってもレストレードをからかうホームズ。まず事件の不可解な点を口にしたレストレードと話しているワトソンに仕草で「街灯があるから」と示すホームズはかわいいです。

 後半、ベーカー街でホームズの帰宅を待つレストレードがホームズの資料をコッソリ盗み見ようとするときもおかしい。資料をのぞこうとしているレストレードに気付いたホームズは無言でワトソンを招き、二人でニヤニヤするのです。一旦、ドアから離れ、わざとらしく「あぁ今日も疲れたなぁ」なんて言いながら部屋に近づく二人。

 撮影上のトリック(?)にも注目したいところがあります。クライマックスで、ホームズが像を打ち砕き、なかから黒真珠を見つけて取り出すシーン。おそらく、像のなかに真珠の小道具はいれていないはず。考えられるのは二つ。

 像の陰、カメラの死角に真珠を置いておき、探す芝居をしながらジェレミーが拾いあげる。

 またはジェレミーが手品師よろしく手か袖口に真珠を隠した状態で像を砕き、探すふりをしながら取り出す。カットが入らず、ひと続きのシーンなので、どちらかでしょう。

 像を割る前にホームズが見せるテーブルクロス引きも素敵です。ナイフかフォークかを一本飛ばしてしまうので失敗なのでしょうが、意に介さずとすまして像を砕く準備をします。

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