プライオリ・スクール
ちょっと雰囲気の違う印象を受ける作品。これは原作がというよりかグラナダ版ドラマのなかで、という意味。簡単に書くと「暗い」。映像的にも暗い。内容的にも暗い。
そのせいなのか、日本語版では通常オープニングのタイトルロールの前に短い映像があるのが恒例だったのが、この作品ではいきなりタイトルロール。
古い学校、荒野、洞窟と映像的にも暗いのは、製作陣のこだわりでしょうか。
事件はホルダーネス公爵の息子、サルタイヤ卿の誘拐事件。進行中の事件にもかかわらず、ワトソンが招かれた食事の席でホルダーネス家のルーツを「牛泥棒」と語ったりするシーンもあり、「ん? ワトソンってこんな無神経な人だっけ? 原作にあったっけ?」となります。ただ、これが後半、機能します。
ホームズ作品の映像化として適切かどうかはともかくとして、機能します。
見所は映像でしょうか。
消えた少年と教師の痕跡を追い、荒地を捜索する場面にうつる自然は見事。田舎の宿屋での食事の場面も雰囲気があります。
宿屋の主人の傷についてワトソンがホームズに説明する際、ほこりの積もったテーブルに指で跡をつけるという見せ方は映像ならでは。
馬に乗るホームズ・ワトソンも、この作品だからこそ見られるものでしょう。
また、ちらっとしかうつらないプライオリ・スクール付近の見取り図が、原作についているものに似せようとしているところもスタッフの心意気を感じます。本当にちらっとしか、それも部分的にしかうつらないのですが、それだけに嬉しくなります。
【ネタばらし見所解説】
この作品では、シリーズのなかでもトリックらしいトリックが出てきます。ホームズ譚はトリックで楽しむタイプのミステリではない、とするのが筆者の見解。
追跡者の目をごまかすトリックも小粒といえば小粒で、作品全体を支えるものではありません。ただ、トリックらしさはあります。
これはドイルの創案ではなく、おそらく作中の設定のように古い逸話や伝承に実際にあるものなのではないか、と感じています。
古い蹄鉄に新しい釘、この寒い時期に牛の放牧はできない、ときちんと手がかりが提示されているところもいいです。
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