赤毛連盟

 日本語版では、馬車から建物に謎の箱がいくつか運び込まれる場面からスタートします。作業の様子を物陰から見ている男が一人。

 今回、グラナダ版と日本語版で大きく違うのは、この先。ここでは書かないでおきます。あるシーンが挟まれて、おなじみのオープニング映像へ。

 あけてベーカー街。赤毛の男、ジェイベズ・ウィルソンが奇妙な体験談を話します。新聞広告に掲載されていた「赤毛連盟」なる組合に欠員ができ、新しい人を募集しているらしい。簡単な仕事で大金が稼げるということで、従業員のビンセント・スポールディングの勧めもあり、ウィルソンは面接会場へ。

 今回の見所の一つは、この会場。新会員になろうと集まった赤毛の男性が階段にぎっしり並ぶ様子をとらえた映像が見事です。列を押しのけてウィルソンを連れて突き進む、スポールディング、「割り込みはダメだろ」と怒鳴られながらも、ウィルソンは面接の部屋に押し込まれます。

 赤毛連盟のスタッフのダンカン・ロスと気弱そうなウィルスンの面接の場面もおかしいです。子どもがいないと知ったロスが「赤毛の子孫繁栄を願って創設された基金の意思にはそぐわないかもしれない」と難色を示すところなんかは、実にいいです。

 ロス、ウィルスンもいいのですが、今回はやはり、スポールディングの演技に注目でしょう。

 クライマックスの質屋でのドタバタも含め、随所にコミカルさが感じられる作品に仕上がっています。



【ネタばらし見所解説】



 スポールディングの演技がいいのは、彼が実は悪党だから。主人のウィルソンを巧みに操り、犯罪計画を進める一方で、ホームズに犯罪を暴かれたときは「貴族の血を引いている」という自尊心を示します。

 役者では銀行の重役のホームズを馬鹿にしたような芝居も見事。

 そして、今回、ネタばらしをすると注意喚起したうえで書きたいのは、なんとモリアーティが登場する点。実は日本語版のオープニングで馬車が銀行に金貨を運び込んだ後で、場面が切り替わり、「モリアーティ教授、万事整いました」「うむ、赤毛連盟の件だな」みたいなやり取りがあるのです。

 これは原作を知っているファンほどビックリでしょう。実はグラナダ版で「赤毛連盟」の位置は、第一シーズンの最終話の一つ前。ファーストシーズンの最終回で「最後の事件」をやってモリアーティ教授と対決させるために、一つ前の「赤毛連盟」でホームズとの因縁をはっきり視聴者に示そうという狙いのようです。

 ちなみにグラナダ版のオリジナルでは中盤でモリアーティが登場します。個人的にはこちらのほうが好きな改変です。

中盤のシーンをオープニングにもってきた日本語版のスタッフの工夫もいいのですが。

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