ノーウッドの建築業者

 オープニングは燃え盛る炎を窓辺から見下ろす女性(レキシントン)の姿から。どうやら、火事のよう。消火作業が終わった焼け跡から人間の手の骨のようなものがうつり、死体があると示され、いつものオープニング映像へ。

 あけると、ベイカー街221Bでワトソンとホームズが依頼人の話を聞いているような姿。ナレーションの形でワトソンが事件のあらましを語り、依頼人マクファーレン弁護士の台詞へ。

 ノーウッドの建築業者、オールデーカの焼死事件の最有力容疑者だと目され、警察から追われていると知ったマクファーレンは助けを求めて、ホームズのもとに駆け込んだわけです。

 そこへ今回の影の主役ともいうべき、レストレード警部が登場します。演じるはコリン・ジェボンズ。個人的には原作のイメージとは違うと当初は感じましたが、シリーズを追ううちにグラナダ版はこれでいいのだ、と思うようになりました。

 原作では「それなりに鋭いがやっぱり考えが浅くて少し嫌なやつ」の印象でしたが、コリン・ジェボンズの演技を通すと「なかなか知的で自信を持つのも納得だが、それでもホームズにはかなわないちょっと愛らしい正義の人」になるのが不思議です。

 依頼人の素性当てはないですが、オールデーカが正式な書類作成のためにマクファーレンに託した遺言の下書きを巡る推理が鮮やか。「なぜ字が乱れているのか」の答えがわかると次の疑問が浮かび上がり、即座にホームズが今回の事件の核心に通じる指摘をするのです。この長柄は、とても本格ミステリらしいです。

 本格ということでいえば、今回も原作にない部分が脚本で追加されています。これは原作の長さの問題というよりは、原作で深く言及されなかった「読者の多くが『え、じゃあ、あの点はどういうことなの?』となる部分」に対する補足になっています。

 ここが実に本格ミステリ的で、原作の本格ミステリとしての物足りなさを見事に補っています。

 役者ではオールデーカの家政婦、レキシントン夫人の無愛想な演技が見事。特に終盤でレストレードが発見した決定的証拠をホームズに見せるときの演技に注目したいです。

 他の見所は、当時の火災の処理、消防の様子が映像で見られることでしょうか。当たり前といえば当たり前なのですが、消防車も馬車なのですね。





【ネタばらし見所解説】





 事件の真相はオールデーカが自らが焼死したと見せかけ、恨みを持つマクファーレンの母親に復讐すること。オールデーカはマクファーレンの母親に婚約破棄され、息子を犯罪者にすることで復讐しようとしたのです。

 本稿の前半で触れた原作にない部分はオールデーカの身代わり死体に関する部分。

 では、生きていたオールデーカはどうしていたか。建築業者だけに屋敷の二階(三階?)に隠し部屋をつくり、そこに隠れていたのです。

 ホームズはわら束を燃やして火事を装い、隠れていたオールデーカ自らが飛び出してくるように仕向けるのです。もちろん、レキシントンも共犯。

 ホームズがオールデーカの隠れている階上を調べ出したとき、階段の下から上の様子をうかがうレキシントンの表情は、彼女が犯人だとわかってみると実にいいのです。

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