ギリシャ語通訳(2)

後半はネタばらしをします。


【ネタばらし見所解説】


 メラスを通訳として雇った連中の狙いは、ソフィ・クラティディスの財産。そのためには管財人の兄ポール・クラティディスのサインした書類が必要なのでした。妹ソフィと違い、ポールはギリシャ語しかわからず、メラスは脅迫めいた交渉のために雇われたのです。

 財産を奪うためにソフィと婚約をするハロルド・ラティマー役はちゃんと女性を騙しそうな男前の役者というところがいいです。

 また計画の首謀者とおぼしきウィルソン・ケンプ役の俳優が笑顔を絶やさない気味の悪い男を演じているのが見事。本当にこのシリーズは悪党が悪党らしさを楽しそうに演じていて、見ていてニヤニヤしてしまいます。

 原作にない後半部分の舞台は、列車の中。書類に署名をさせ、用済みになったポールとメラスを木炭ガスで中毒死させる仕掛けを施し、屋敷を後にした一味。時刻表に気付き、ケンプ、ラティマー、ソフィの三人をホームズたちは追いかけます。時刻表に気付くのがワトソンという製作陣のやさしさがにくいです。

 ぎりぎりで列車に乗り込むマイクロフトの滑稽な姿もおかしいのですが、ここが後で効いてきます。

 列車に乗ったホームズは車内にいる一味を探そうとします。車掌の話から二つの客室に限定されます。早速、客室を出て捜索に向かうホームズ。寝ているマイクロフトを起こそうとするワトソンにホームズは「年寄りは寝かせておこう」(字幕では「危険な仕事は僕ら二人でやろう」といったニュアンスだったはず)とひどい。

 ところが、これはマイクロフトの狸寝入り。ホームズとワトソンが出て行った後でマイクロフトが目を開くというアップのカットでわかるようになっています。

 前半のメラスが奇妙な体験を語るシーンで「話の途中で寝ているマイクロフトをホームズが起こす」という原作にはない場面がグラナダ版にはがあるのですが、ここは後半の布石だったのでしょう。

 最初の客室を見て、即座にホームズはこの三人がソフィたちではないと判断します。ここでも製作陣は遊んでいて、「左利きの印刷工と肝臓を悪くしたその兄」とか「ロマンスを求めて飛び出した縫い子」とか、いかにもホームズがやりそうな推理を口にさせるのです。ちょっとずるいのは根拠がないこと。ただまぁ、これは遊びなので。

 ソフィとラティマーのいる客室に乗り込むホームズとワトソン。芝居がかったやりかたでラティマーに真相を知っているぞ、と伝えるホームズ。にくいのは自らシャーロック・ホームズと名乗らないところ。「こいつらは警察じゃない。旅行の邪魔をするなら護衛を呼ぶぞ」と脅すラティマーにホームズは「なんならワトソン君に(警察を)呼ばせようか?」と一言。

《ワトソン》というワードで、ラティマーが目の前の人物がホームズだと気付くようになっているのです。

 この客室のシーンで兄の死を伝えられたソフィとラティマーが言い争うのですが、一部、通路(ホームズたちのいるほう)からではなく、外の窓側から二人のアップを交互に映す演出があります。ここでも陰影が効果的で、顔全体がはっきり見えるのではなく、目のあたりだけ光があたり、後は薄暗いという感じなのです。前後も細かくカットを割っていて、印象的です。

 ホームズたちがソフィ、ラティマーと対決しているとき、もう一人の悪党、ケンプはなにをしているか。なんとマイクロフトとお食事中。さまざまな海外の話をしたらしき後で「でも一番はギリシャですね」と語るケンプ。「ギリシャ語ができるのですか」と問うマイクロフトに「通訳などお金を積めば雇えます(字幕では「通訳などどこにでもいます」といったニュアンスだったかと)」と語るケンプ。

 短いやり取りですが、ケンプのキャラクターがよく出ています。こういう台詞が書きたいですね。食事を終えたケンプと感謝と別れの挨拶をするマイクロフトは列車の揺れでよろけてケンプをハグしてしまう形に。

 実はここでケンプの拳銃をすりとっていて、客室に戻ってホームズたちを見つけたケンプが銃を突きつけようとした矢先に「これはおたくの銃でしたな」とケンプに銃を突きつけるのです。マイクロフト、ちょっとかっこよく描かれすぎな気もします。

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