ぶなの木屋敷の怪
オープニングは広い庭を持つお屋敷の塀を乗り越えようとする男のシーンから。獰猛そうな番犬が駆け寄り、侵入者(?)は逃げ帰る、というところから。ここでいつものオープニング映像。
予断ですが、オープニングだけを見せて原作を当てるクイズを出したら、この作品の正解率はシリーズ屈指の低さを叩きだすのではないでしょうか。
今回の依頼は盗まれた機密書類の奪還でも自転車に乗って追いかけてくるストーカーでもなく、求人を受けていいかどうか。少し説明しましょう。職探しをしていたバイオレット・スミスは家庭教師の働き口を見つけます。雇用主のルーカスル氏にも気に入られ、破格の条件を提示されます。ところがルーカスルは奇妙な条件をつけるのです。
この条件はバイオレットには受け入れがたく、また条件そのものが不可解。仕事に就いてよいかホームズに便りを出して、ベーカー街を訪れるのです。
はじめのうちは「ついに身の上相談を受けるまで暇になったよ」と嘆き、やる気のなかった我らが名探偵ですが、バイオレットの話を聞くうちに真剣になっていきます。働くことにした、というバイオレットが去った後、ホームズはワトソンに告げます。「もし彼女が僕の妹だったら、なんとしてでも止めるね」と。
バイオレット・スミスを演じるナターシャ・リチャードスンがとにかくキュートなので「ホームズ、依頼人が若くてかわいらしい女性だから、そんなことを言ったのではあるまいね、よもや」と勘ぐってしまいます。
その後、バイオレットがルーカスルの家、通称「ぶなの木屋敷」で働きながら経験したことが描かれます。
ここでちょっと、タイトルのお話を。一般的には「ぶなの木屋敷」ですが、グラナダ版ドラマの日本語訳版では「ぶなの木屋敷の怪」となっています。「ぶなの木屋敷」ではどんな話かわかりにくいとの判断からでしょうか。
確かに「怪」とつけたくなるほどのお話。イギリスのある種の系統の怪談って、こういうお屋敷が舞台で、こういう変な人間たちが集うお話なのかな、と感じます。この解釈は筆者の感覚なので、詳しい方には笑われてしまいそうではありますが。
ルーカスル邸をロケ地にしてホラー映画が撮りたいと、シナリオも絵コンテもできない私に思わせるほど雰囲気たっぷり。スタッフ、よく見つけたなぁ、と。
使用人のトラー夫妻はじめ、ルーカスル邸の人々は個性的というか不気味。これは演出なのだと思います。
ワトソンの射撃の腕前を見られるシーンもあり、ワトソンファンには嬉しいかぎりです。
【ネタばらし見所解説】
ずばり書いてしまうとルーカスルは悪党です。家庭教師を雇ったのは、娘のアリスのふりをさせるため。演技をさせてアリスの婚約者を追い払うため。そのためにアリスによく似たバイオレットを破格の給与で雇い入れ、自慢の髪を切らせるのです。前述の雇い入れ時の奇妙な条件とは「髪を切ること」。これをホームズは不審に思い、陰謀の匂いを嗅ぎつけるのです。
後述しますが、今回のホームズの推理は、ここくらい。今回はホームズの出ない屋敷の出来事とアクションがメイン。
「あぁ、こいつ、絶対に悪い野郎だなぁ」と感じさせる怪しい演技をきちんとしてくるスチュワート・シンバーグがお見事。これは日本語吹き替え版の声優さんの演技も大きいでしょう。
先に触れましたワトソンの射撃シーンはクライマックスに登場します。バイオレットを救い出しに来たホームズたちに、ルーカスルが犬をけしかけます。オープニングにも登場した番犬ですね。
侵入者に飛びかかるように敢えて数日間、餌を与えずに空腹にさせておいた犬はホームズ……ではなく、犬小屋の鍵をあけた主人ルーカスルに食いつきます。噛みつかれるルーカスルを助けるべく、ワトソンは銃を撃ちます。もちろん、ドラマですので愛犬家のかたがたや動物愛護協会のかたがたは、ご安心を。
手元のDVDの作品紹介兼解説では、最後のジェレミー・ブレッドの表情がワトソンの賛辞に対する皮肉だとしています。確かに今回のホームズ、直接的には頭脳ではなんにもしていないのです。
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