④ その他もろもろ

 選手二人の素晴らしい挑戦と本番での走りを見ながら、陰で支えている人達の力を凄く感じていた。

 中でも監督の「ライタ」の力には選手二人も大きな感謝の気持ちを述べていた。


 コロナ禍の厳しい状況の中、オリンピック前にコーヘーを連れてワールドカップに出向いた事、ミポリンがオリンピックコースを攻略する為に一緒になって考え実行してきた事、などなど。

 ライタの力を、走る選手を通して見えた事が嬉しかった。


 日本代表としてレースに臨む時、レースにおいて普段サポートしてもらっている人達のサポートは受けられなくなるので、選手にとってはやりにくなる部分が出てきてしまう事もある。


 そんな中で、2014年に行われたアジア大会の事は忘れられない。私は選手として、ライタは監督として参加した大会だ。

 ライタは出発前に選手団で連絡を取り合えるツールを作り、みんなに監督としての心づもりを伝えてくれた。

 素直な自分の思いを伝えてもらった事で、私からも監督に伝えようという気持ちになった。今の身体の状態や気持ちを伝え、それを分かってもらえてとても心強かった。遠征期間を通して親身になってサポートしてくれた事がすごく嬉しく、力になり、私はそのレースで自分の力を全て発揮する事が出来た。

 常に選手達に気を配りながら、やりやすい距離を保ちながら、やりやすいように動いてくれた。

 これだけやってもらえたら、結果で返したいと思うのは選手なら当然だ。


 私がロードレースから転向し、初めて出場したMTBの世界選の時、ライタは若い選手だった。同じ選手として、何度もアジアや世界のレースを走った。普段はバカな事ばかり言っているようなライタは当初から競技に対してはとても真髄に取り組んでいて、パッと見とは違ってとても繊細な心を持ち、何気に優しい気遣いをしてくれる人だと思っていた。

 中々結果を出せずに苦しかった事も多かったと思うけれど、シドニーオリンピックを走った事、アジア選手権で彼の優勝ゴールをすぐ近くで見た時は本当に嬉しかった。

 自分が成し遂げられなかった事を次の世代に託して若くして引退し、走らせる立場に回り、監督として彼にしか出来ない事をやってきてくれた。

 ライタにとってもこの東京オリンピックは一つの大きな集大成。


「お疲れ様でした。ここまでやってきてくれた事、ありがとう!」


 そしてライタだけではなくて、選手達を支えた表には出てこない沢山の陰の力に拍手を送りたい。


 日本選手に声援を送る一方で、オリンピックチャンピオンを決めるレースは素晴らしかった。

 男子のチャンピオンはロードレースでもシクロクロスでも輝かしい成績を残す自転車界の若き天才、イギリスのピドコック。

 自ら「MTBをやる為に生まれてきたと思う」と話す彼の走りはスムーズで力強く本当にMTBをやる為に生まれてきた人だと思ってしまう。

 女子のチャンピオンはプレ五輪でも優勝したモデルのように美しいスイスのネフ。雨の影響で難易度を増したコースを別次元の速さで駆け抜けた。そのしなやかな動きは野生の猫を見ているようだった。

 そしてこの二人はオリンピック直前に見舞われた骨折という怪我を乗り越えての勝利。ネフに至ってはプレ五輪後に大落車して内臓を損傷し、選手生命も危ぶまれていた。復活後も精彩を欠き、ワールドカップでも彼女らしくない走りで低迷していたが、この大舞台で誰も寄せ付けない素晴らしい走りを魅せてくれた。


 日本はオリンピック開催の為に犠牲にしなければならない物は沢山あっただろう。特定の競技だけを有観客にする事に反対の声も沢山あった。

 今もオリンピック、パラリンピックへの否定的な声が沢山あるのは仕方ない事だと思うけれど、開催への大きな感謝の気持ちが沢山ある事も知ってほしいなと思っている。

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