第18話 一夜明けて

ひとしきり騒ぎ立て、一夜が過ぎた。三人はオークの縄張りで目を覚ます。

 オークが寝静まっている中、これからの予定を話し合い始めるのであった。

「さて、ライブもしたわけですが」

「女神さま……」

 オークにおびえながらもしっかりとライブを楽しんでいたマモPは、いまだに余韻から抜け出せていなかった。ライブ中の美羽を思い出し、幸せに包まれている。

「この役に立たないゴブリンは置いておくとして……とりあえずこいつらをどうにかしたいんだけど」

 言うと、琴葉は衣装カバンに入った鉱石を取り出した。彼女が取りすぎたせいで、カバンはミシミシと悲鳴を上げていた。いつ破けてしまってもおかしくはない。換金できるうちにしておきたいと、琴葉は美羽に提案した。

「それは私も賛成かな。売ったお金で機材とかもそろえたいし」

「アンタアイドル以外に興味ないわけ……」

 げんなりとした表情で、琴葉は言った。たしかに彼女にとってもアイドル活動というのは重要なものである。しかし、あくまでちやほやされながらお金がもらえるからなのだ。美羽のように純粋な思いでアイドルをしていない彼女にとって、それは到底理解できない感覚だった。

「ないわけじゃないけど……やっぱり一番大事なのはアイドルだから」

 頬をかき、照れくさそうに美羽は答えた。そして、マモPのほうに視線を向ける。

「というわけで一回ダンジョンを出ようと思うんだけど……」

「あぁ、いいぞ。俺はついていけないがな」

 やっぱりかと美羽は特に驚きはしなかった。人間の住む街に魔物など出れば、それこそパニックになるだろう。マモPに何かがあれば、彼女たちがこれ以上ダンジョンを攻略するのは不可能に近くなる。それを彼女も重々理解していた。

「一時的に別れるだけだろう。どうせ俺はここにいる」

「アンタってホントに……」

 調子のいいやつだと琴葉は思った。昨日のチキン野郎はどこへ行ったのか。媚びへつらうことに関しては彼に勝てないだろう。本音をそっと胸の中に隠す。

「とにかく、そういうわけだからもう行くわ」

 さっと立ち上がる。そして踵を返そうとした時だった。

 足音で一体のオークが目覚める。オークは立ち去ろうとする二人を見て、思わず飛び上がった。

「どこへ行くんだ!?」

「ひゃっ」

 突然声を張り上げられ美羽が悲鳴を上げる。その声でほかのオークたちも次々と目を覚ました。

 ざわざわと、騒ぎだす。ここでまた事態をややこしくしたくはない。先に動いたのは美羽だった。

「一回聞いて!」

 しんと静まり返る。オークたちの視線が美羽に集まった。

「私たち、もっといいライブをしたいから一回帰ります!」

 帰るという言葉に、オークたちはひどく嘆き悲しんだ。一晩だけではあったが、あれだけの強烈なライブを見せられた彼らの心には確実に爪痕を残すことができたのである。ひどいものは「俺もついていく!」なんて言い出す始末だ。

「でもね!」

 琴葉が言葉を続ける。

「絶対にすぐ戻ってくる! そこのゴブリンを置いていくから、みんなよろしくね」

「えっ」

 指名を受けたマモPが、オークに取り囲まれる。彼らはマモPを担ぎ上げ、雄たけびを上げた。

「任せろ!」

「このゴブリンは俺たちの宝だぁ!」

 騒ぎ立て、見送るオークたちを背に、二人は洞窟を後にした。


──彼女たちの地下アイドル人生はまだ始まったばかりである。

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