第13話 「ヤる!!!!!」
「ぐるぁあああ!」
人狼の爪は彼女のすぐ横に突き刺さった。あと数ミリでもずれていれば直撃であっただろう。腕を地面から引き抜くと、人狼はその場でうずくまってしまった。
人狼の右目には、先ほどマモPにもらっていたナイフが突き刺さっていた。琴葉が美羽のほうを見ると、膝立ちの姿勢で、息を切らしている。
「琴葉ちゃん、早く!」
美羽の言葉が、琴葉に思考を取り戻させた。今が好機と、彼女は人狼の手にナイフを突き刺す。それによって、人狼はさらに呻きの声を上げた。
「やった!」
歓喜に満ちた声で、美羽は言った。ナイフを取ることもできず、人狼は苦しそうな声を上げている。
彼が動かないうちに、琴葉は美羽たちのもとへと駆け寄った。
「二人とも大丈夫!?」
「なんとか……Pさんは気を失っているみたいだけど」
美羽の言う通り、マモPはぐったりとしたまま動かなかった。抱きかかえられている彼は、死んでいるのではないかと一瞬目を疑ったが、時折せきこんでいる様子を見て、琴葉は安堵の色を見せる。
(あれ、なんであたしちょっとホッとしてるんだ)
「琴葉ちゃん?」
「あ、いや何でもない」
理由など探りたくもない。琴葉はポッと浮き出た疑問を無理矢理振り払った。
「さて、こっからどうしようか……」
「どうするもこうするも、あいつ倒さないとゲームオーバー」
「だよね……」
彼を地面に寝かせ、美羽は立ち上がった。頬を伝う汗が、火照った体を冷やしていく。
(そんな顔されたらさぁ……)
やけっぱち気味に頭を掻きながら琴葉は隣に並び立つ。覚悟を決めたように、彼女は胸の前でこぶしを突き合わせた。
「あー、もう! 仕方ない……今回だけだからね」
「それって……」
「ヤる!!!!!」
気合を入れるかのような叫びが、フロア中に響き渡る。にじみ出た汗はさっきまでの冷ややかなものではなかった。
「無茶だよ琴葉ちゃん。いくらムキムキになったからって……」
「それ禁句! 次行ったら叩くよ!」
「怖いよ琴葉ちゃん!」
「怖くしてんの! ……こいつがくたばった以上、あたしか美羽がどうにかするしかないんだよ」
その言葉への返事を、美羽は持ち合わせていなかった。唯一の武器も使い、手のない彼女が助かる手段はこれしか残されていない。
言葉を交わし終え、琴葉はタイミングをうかがう。彼女に与えられたチャンスは一回限り。それを逃せば勝機はない。人狼が腹を見せたその一瞬。全神経を張り巡らせて、琴葉はそのときをじっと待つ。そして。
「今じゃあああああああ!」
目に刺さったナイフを引き抜こうとした隙を琴葉は見逃がさなかった。みぞおちに渾身の右ストレートが直撃する。ノーガードだった人狼の口から血が飛び出す。
それがトドメとなり、人狼はその場で気を失ってしまった。
力の限りを尽くし、琴葉はその場にへたりこんだ。そこに、美羽が駆け寄ってくる。
「やったよ琴葉ちゃん! 私たちだけで魔物を倒したんだ」
「あ……」
言われて気づく。今回はマモPの力をほとんど借りていない。彼の武器があったからこそ勝てたのだが、それ以外ではほとんどが二人の活躍なのだ。
自分たちだけでも生き抜くことができるかもしれない。そうなれば地下アイドル活動も現実味を帯びてくる。その事実を琴葉は全身でかみしめていた。
「……よっし、んじゃとりあえずここを拠点にするか」
「そうだね。Pさんが起きるまで私たちも休んでいよう」
疲れ切った体を癒そうと、二人はそのまま休息を取り始めるのであった。
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