第12話 ボス戦!?

「もうすぐ最奥だぞ」

「や、やっと着いた……」

「バカ……まだあるっての」

 その後も幾度かの戦闘を繰り返し、三人はようやくダンジョンの最奥へとたどり着こうとしていた。すでに体力の限界に達していた二人は、気力だけでどうにか歩を進める。

 そして、最奥のすぐ手前まで来たとき、マモPが足を止めた。

「何……早く行くわよ」

 琴葉の言葉も聞かず、マモPは自らの武器の手入れを始める。その場に座り込むと、丁寧に矛先を削っていく。

「女神さまたちも準備しないのか」

「準備って、何の?」

 何も知らない二人はきょとんとした顔で彼を見つめる。彼の言いたいことを必死に想像してみるが、やはりそれらしい理由など思いつきはしなかった。

 二人の様子を訝しげに見つめるマモPだったが、冗談で言っている様子ではないことを悟ると、手入れをしている手先を止めぬまま説明を始めた。

「この先に行くためだよ。ダンジョンの最奥付近には魔物が縄張りを作ってるって話。聞いたことはなかったか」

「え、何それ聞いてないよ」

 思わぬ不意打ちに、面食らう。ここにきてまたしても戦闘なのか。二人は落胆の表情を浮かべた。何も準備することがない彼女たちにとって、この知らせは死刑宣告と何ら変わりない。二人はただじっと、マモPの支度が終わるのを待ち続けた。



「……よし」

 数分後。ようやく準備を終えたマモPが、得意げに槍を掲げた。

 少しでもと休んでいた二人も、それを合図に立ち上がる。それぞれが覚悟を決めた面持ちで、決戦へと臨む。

「これで私たち……」

「えぇ、ようやくゴールってわけ」

 ここにきて、二人は感慨にふけっていた。一時は本気で死を覚悟したこともあったが、それも今となっては些細な事。幾度となく戦闘を繰り返し、彼女たちの生存本能は限界まで引き出されていた。緊張が脈を早める。それさえも、今の二人にとっては心地いい感覚となっていた。

「行くぞ!」

 ゴブリンの声とともに、一気に駆け抜ける。曲がり角を曲がると、そこには体育館ほどの広間があった。奥には先へと続く道があり、それが次のフロアへと続く階段であるとわかる。しかし、その目の前には屈強な魔物が待ち受けていた。姿は先ほど対峙した人狼によく似ている。しかし、その気迫は別の種族だと説明されても容易に理解できるほどすさまじい。

「あれってさっきの人狼?」

「いや、あんなやつとは比べ物にならない」

 思わず固唾をのむ。今まで戦ったこともないような強大な敵に、マモPの手は震えていた。それでも進むしかないと、必死に己を奮い立たせる。

「もし、狙われたらこいつを投げろ」

 そう言って、魔物ピーは石で作られた小型のナイフを二人に手渡した。自らも戦わなければならない。その事実を、美羽は静かに受け止める。

(私だって、やるときはやらなくちゃ……)

 自分に言い聞かせ、美羽は目の前の人狼を見つめた。

 三つの敵意を前に、人狼は見定めるように一瞥した。己よりもはるかに格下であることを知ると、人狼は近くの小石を投げつける。それは、これ以上近づけば命はないという警告だった。

「っ!」

 すさまじい速度で投げられた小石を、マモPはかろうじて防いだ。あいさつ代わりの攻撃であるというのに、腕がしびれて動かない。圧倒的なまでの実力差。二人を守りながら戦うという選択肢を、彼は捨てざるを得なかった。

「二人とも、死ぬなよ」

 それだけを告げると、マモPは人狼めがけて走り出した。振り下ろされた爪に当たらぬよう、滑りこみで懐へと近づく。しかし、それも人狼にとっては想定の範囲内だった。

「ぐるぁ!」

 人狼は爪を地面に突き刺すと、それを軸に逆立ちの姿勢をとる。心臓を狙ったマモPの一突きは見事に空を切った。

 隙だらけになった彼の脇腹に、人狼の蹴りが入る。慣性ののった一撃は、マモPを容易に元いた位置まで吹き飛ばした。

「Pさん!」

 彼のもとへ駆け寄ろうとするが、美羽の前に人狼が立ちふさがる。爪で反動をつけ、一跳びで二人のいる場所まで跳んできたのだ。

「美羽!」

 とっさにナイフを胸の前へ出す。ギリギリ防御に成功するが、美羽も壁際まで吹き飛ばされた。

(どうする……どうする……)

 今までとは比べ物にならない強敵を前に、琴葉は恐怖を隠し切れなかった。足が思うように動かない。必死に思考を張り巡らせるも、恐怖に支配された頭では打開策など到底見つかりはしなかった。

 完全に戦意を失った琴葉に、人狼の爪が襲いかかる。死への恐怖で腰が抜けたことで間一髪回避できたが、それ以上の奇跡はない。次に攻撃が来ればそれで終わり。死を覚悟し固く目をつむった琴葉に、再び人狼の手が迫りくる。


 そして──。

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