第5話 建国宣言?

「ちょっと待ってくれ、いくらなんでも急すぎる」

「そうだよ! てかあたしたちって、私何にも聞いてないよ!?」

 唐突な宣言に、二人は動揺を隠しきれなかった。

 そんな彼らを振り切るように琴葉は言葉を続ける。

「そりゃ今決めたもん。こんな奴ら相手にこれ以上猫かぶってられないし、そもそもこれ犯罪だからね?」

「まぁ、確かに……」

 まくしたてられ、マネージャーは返す言葉がなかった。

 彼自身も本当はどうにかしてやりたかったのだ。しかし、重なりに重なったレスをすべて消すには、彼が関係者であることを掲示板の運営に伝えなければならない。あの手この手を使って証明しようとしたが、すべてにおいて信用は得られなかった。地下アイドルという立ち位置上、その確固たる証拠を彼は持ち合わせていなかったのだ。

「あんたとしては消そうと努力してたんでしょ。それくらいは分かってるつもりだし、それに感謝をしてないわけじゃない。けどさぁ、ネットなんて一回出りゃ完全には消せないからね? それくらいはあんたでもわかるでしょ?」

「あ、あぁ……」

「けど、それじゃこれからどうするの?」

 そんなただならぬ雰囲気に、美羽の表情が曇る。このままでは彼女がアイドルをやめてしまう。そうなってしまうと、自分はどうすればいいのか。ここまで二人でやってきたからこそ、彼女には考えることができなかった。

「ま、あんだけ強気に言ったけど、正確にはアイドルはやめないわよ。あんな奴らのせいでしたいこともできないなんてまっぴらごめんだし」

「じゃあ……」

 パッと美羽の顔色が晴れる。表情がコロコロと変わる美羽にあきれつつも、琴葉は話をやめなかった。

「そう、アイドルは続ける。けどね、あたしたちは生まれ変わるのよ……本物の地下アイドルとしてね!」

「……どういうこと?」

 口をぽかんとさせた美羽が問いかけた。マネージャーも彼女の意図をくみ取れずに、ただただ真意が聞けるのを待っている。

「あー、もう皆まで言わせないでよね」

 少し顔を赤らめて、彼女は言った。さっきの一言で理解してほしかったと言うように、それ以上何かを言うことを控えている。

 しかし、一向に理解しようとしない二人を見て、ついに口を開いた。

「ダンジョンよ! ダンジョンでアイドルすんのよ!」

「……へ?」

 思わず素っ頓狂な声がマネージャーの口から漏れる。突拍子なことを耳にしたからか、大事そうに持っていたスマホがするりと手から落ちた。

「地下で魔物たちにウケるアイドルになる! そんで、私たちが自由にできる帝国を作るのよ!」

「なるほど!」

ポンと手をつき美羽は納得した。

しかし、マネージャーは一人で慌てふためいていた。

「お前なぁ、ここに来てついにおかしくなっちまったぶへぇ!?」

 彼の言葉を待たず、琴葉の鉄拳が頬にめり込む。アイドルらしからぬその一撃は、彼を黙らせるには十分すぎるものだった。

「問答無用。てかもう少し落ち着いてしゃべりなって。それでも社会人でしょ?」

一ミリも納得がいっていないマネージャーであったが、考えをまとめると伝えたかった言葉を口にした。

「ダンジョンって……お前たちどんだけ大変かわかってるのか?」

「あんたがいれば問題ないでしょ」

「あれ、マネージャーさん何かやってましたっけ?」

「こいつ、一応免許持ってんのよ。冒険家の」

 

 獣や魔物と呼ばれている種族が生息しているダンジョンへの侵入は、基本的に冒険家の同行が必要である。

 魔物の危険度は十段階にわかれているが、一番低い段階の魔物でも、免許のないものだけで挑めば命の保証はできない。現に、ここ最近ニュースで取り上げられている冒険者の事件は大半が魔物に襲われたという内容だ。

 プロである冒険者でさえ危ないために、開拓が進められている現代では、一般の立ち入りが禁じられてしまったのだ。


「ま、マネージャーやる前にちょっとな」

「すごいですよ! じゃあ今すぐ行けますね」

「いや、ちょっと待て。魔物だったりとか周囲の安全とか用意しなきゃいけないことはいっぱい……」

「大丈夫ですって! 何があっても、マネージャーさんは私たちを守ってくれるじゃないですか!」

「えっ」

 マネージャーの右腕が拘束される。

「ま、そういうことよね」

「ちょっと」

 そして左腕も。がっちりと掴まれた両腕には、彼を決して逃がさないという強い意志が表れていた。

「さぁ、そうと決まれば」

「早速行きましょう!」

「え、おいちょっと待て」

 ズルズルと引きずられるように、マネージャーたちは楽屋を後にした。

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