14
五十鈴に信彦からの文を届けたあと、月夜は『化け猫亭』に帰ってきた。
「おかえり、月夜」
「よく帰ってきたにゃ、月夜」
「お疲れさまにゃ、月夜」
ちょうど白菊と紅丸も仕事から帰ってきたところらしく、お蘭と二匹に出迎えられた。
「ただいまにゃ」
月夜は鞄の中に入れていた、お金の入った巾着をお蘭に差し出した。
「ありがとう。今日は、どうだった?」
「源じぃと、そのしりあいに、こきつかわれたにゃ。でも源じぃに
それを聞いて、紅丸と白菊もため息をついた。
五十鈴と信彦が互いに想い合っていることは、『化け猫亭』では周知の事実なのだ。
「あの二人、早く祝言をあげればいいいにゃ」
「人間は家柄とか、面倒なことばかりにゃ」
「まったくにゃ」
猫又たちの会話に、お蘭は苦笑をこぼした。
「そればっかりは、いくら『化け猫の手をお貸しします』と言っても、難しい話だからねぇ。見守るしかないさ」
三匹は納得したようにうなずく。
「それでにゃ、自鳴琴なんだけどにゃ」
「わかったから、ちょっと落ち着くにゃ。あとでちゃんと聞いてやるから。仕事道具を置いてこいにゃ」
「わかったみゃ」
月夜はすばやく仕事道具を店の奥にある自室に置いてある籠の中にしまった。そしてすぐに、紅丸たちのところに戻ってくる。
月夜はよほど、どうしても聞いてほしいことがあるようだった。
「それでにゃ。源じぃのぎじゅつはすごいのにゃ。自鳴琴は、はこをあけたら、ちいさなおとだけど、ちゃんとおんがくがながれるんだにゃ」
「そんなもん、庶民は持ってねぇにゃ。どこに届けにいったんだにゃ?」
「ぶけやしきにゃ……。なんか、ふんいきがこわかったにゃ。もういきたくないにゃ」
「それは、大変だったにゃあ」
月夜の報告を、優しい顔で聞いてたお蘭だが、話の区切りがついたところで、ぱんっと、手を叩いて、猫又たちの注目を集める。
「さあおまえたち。積もる話もあるだろうが、ひとまず今日も一日、お疲れ様。ご飯にしよう」
「にゃあにゃ!」
三匹は元気よく、返事をして、奥へと入っていった。
お蘭は店の戸を開けると、立てかけてあった看板を裏返した。
『本日、営業終了』
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