13
「それで、なやみながら、まちをあるいてたら、みちにまよって……」
「僕に会ったんだよね」
信彦は昔を思い出すように、腕を組んで考え込む。
「あのころと比べると、月夜も大きくなったよね。初めて会ったときなんて、片手で抱えられたもんね」
懐かしいと語る信彦に、近寄る月夜。
「あのときも、信彦はこうしてぼくのはなしをきいてくれたにゃ。それで、『足腰が強くて身軽なら、飛脚をやれば?』って、いってくれたにゃ」
「そうだったね。きみに飛脚を勧めたの、僕なんだよね」
「そうにゃ。だからはやく、かきおわったふみをよこすにゃ!」
「はいはい。お願いね」
文を蛇腹に折って、宛先に五十鈴の名前を書いて、お金と一緒に月夜に託す。
「……ふたりはどうして、つがいにならないにゃ?」
「へ!?」
月夜の言葉に、信彦の顔が赤く染まる。
「こうやって、ひんぱんにやりとりしているんだから、すきなんじゃないのかにゃ? おたがいに、いえはおおきいし、信彦はあととりにゃんだから、おやにたのめばいいにゃ。そうすれば、ぼくだって、こんなにおおふくしないですむにゃ」
「つ、月夜! い、い、いいかい? ものには順序があってね!」
信彦はわたわたと言い繕うが、月夜は聞いていないと言わんばかりに、文とお金を鞄にしまう。
「じゃあ、いってくるにゃ。へんじがあるとしても、またあしたにゃ」
「わかったよ」
「さしみ、ありがとにゃ」
月夜はぺこりと頭を下げて、塀を飛び越えていった。
「……人の恋路を、面白がらないでほしいなぁ」
信彦は苦笑しつつ、月夜を見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます