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 部屋についた信彦は、月夜を自分の前におろす。


「月夜、文の相手は五十鈴ちゃんからかい?」

「そうにゃ。すぐにへんじをかくなら、すぐにとどけてあげるにゃ。ほかにしごとにゃいし」


 月夜は改めて文を、信彦に差し出す。今度はちゃんと信彦は受け取った。


「わかった。すぐ返事を書くよ。でもその前に」


 信彦は文を机に置くと、月夜の脇に手をいれて持ち上げると、お腹に顔をうずめて深く息を吸い込む。


「やめろにゃ!」

「あいてっ!」


 月夜は、パンパンッと二発の猫パンチを信彦に食らわせ、拘束から逃れる。

 信彦は不満そうな顔をする。


「いいじゃないか、少しくらい」

「やられるみにもなれにゃ! 五十鈴といい、信彦といい、なんなんにゃ」

「癒されるんだよ。やわらかくて、気持ちいい。巷でも有名なんだよ? 猫吸いって」

「ひえっ」


 月夜は怯えて部屋の隅へと逃げた。耳はへたり、心なしか、かすかに身体が震えているようにも見えた。

 月夜の様子に、さすがの信彦も申し訳なさそうな顔をした。


「ご、ごめんごめん。怖がらせるつもりは、なかったんだよ。猫吸いっていうのは、人間の猫のにおいをかぐ行為なだけだから」

「ぼくは、ねこじゃなくて、ねこまた、なのにゃ」

「あ、うん。そうだね。怯えてても、その訂正はしっかりするんだね」


 信彦は頬をかきながら、文机に置いた五十鈴からの文に目をやり、再び月夜に視線を戻す。


「月夜、今日の配達はもうないんだよね?」

「信彦のへんじを、五十鈴におくるだけにゃ」

「じゃあ少し待ってて。怖がらせちゃったお詫びに、とっておきのものをあげようね」


 信彦は小さく笑って、部屋を出ていった。

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