三ノ巻 配達仕事はお任せを 月夜

 月夜つくよは鏡の前で、身だしなみを整えていた。黒い艶のある毛を毛づくろいをして、配達する文をいれるための斜めがけ鞄を下げると、最後に『化け猫亭』の主人のお蘭が作ってくれた帽子をかぶる。もちろん帽子は、耳がでるように作られており、ぴょこんと耳が外に飛び出る。


「よし。できたにゃ」


 月夜は満足げな顔をして、居住部屋から店のほうへ出ると、おらんが掃除をしていた。月夜の姿を見て、お蘭は手を止める。


「月夜、準備できたようだね」

「にゃあ」


 お蘭はほうきを壁に立て掛けると、箪笥たんすの引き出しから『化け猫亭』に届けられた配達依頼のふみの束を取り出す。


「これが、今日の分だよ」

「にゃあ」

「一応、ここから近い順に重ねてあるけど、好きな道順で行っていいからね」

「にゃ」


 月夜はお蘭から文の束を受け取り、大切に鞄にしまう。


「いいかい? いつも通り、道中で仕事を引き受けてもいいけど、ほどほどにするんだよ。それからちゃんとご飯をどこかで食べること。それから」

「あーもう。お蘭様はしんぱいしすぎるにゃ」


 ついつい注意が多くなってしまいがちなお蘭は、月夜に遮られて口をつぐんだ。

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