月夜はぽんっと、自分の胸を叩く。


「ぼくなら、だいじょうぶにゃ。もう、いっかげつも、ちゃんとしごとをつづけているにゃ」

「そうだね。わかっちゃいるんだけどね……。月夜は、紅丸べにまる白菊しらぎくと違って、一ヶ所で働いてるわけじゃなくて、江戸中を走り回っているから、心配になるんだよ」

「でも、にんげんのひきゃくも、おなじにゃ」

「そうだけど、仕事量は月夜のほうが、多いんじゃないかね。それに私が心配している一番の理由は、月夜がまだ子供だからさ」


 月夜はお蘭の顔を見上げた。お蘭の表情は、心配そうなかげがさしていた。

 居心地が悪そうに、月夜は手をもじもじとさせる。


「やっぱり、めいわくかにゃ……? ぼくがしごとするの……」


 月夜の顔をうつむかせて、耳もぱたりとたおれる。あまりにもひどく落ち込んだ様子の月夜を、お蘭は抱き上げた。


「あぁごめんよ、月夜。迷惑なんかじゃないよ。私が心配しすぎるのが、いけないんだ。おまえは立派に仕事をしてくれているよ。さあ、とっておきのものをあげるから、機嫌を直しておくれ」


 お蘭が取り出したのは、かつお節だった。月夜は目を輝かせる。


「かつおぶしにゃあ!」

「これで許してくれるかい?」

「しかたないにゃあ」


 月夜は嬉しそうに、はぐはぐをかつを節を頬張った。

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