翌日も白菊が店を手伝っていると、店を、正確には小春を、睨み付けている女性がいた。着物の柄こそ違うものの、まったく同じ人だった。白菊は確信する。


(小春さんにいやがらせをいしている人は、きっとあの女性だにゃ。どうやってやめさせるかにゃあ……)


 白菊はそんなことを考えながら、でも顔には一切出さず、にこやかに笑って仕事をこなした。


 それからも女性はずっと、店の近くで小春を睨みつけるように様子を見ていた。小春は気づいていないようだが、店から出てきた客に声をかけたりしているようで、風にのって白菊の耳に届いた。それは小春にたいしての悪口だった。


(これはどうにかすべきだにゃあ。でも、白菊が言って聞いてくれるかにゃあ)


 白菊はどうすればいいのか悩んだ。


 その仕事が終わり、『化け猫亭』に帰って来た白菊は浮かない顔をしていた。


「どうしたにゃ? 白菊」

「くらいかおをしてるにゃ」


 仕事から帰ってきていた紅丸と月夜が、心配そうに白菊に近寄る。


「実はちょっと大変なことかもしれなんだにゃあ」

「大変?」


 紅丸が首を傾げた。


「お店の近くで、いつも小春さんのことを見ている女性がいるんだにゃ。お店から出て来るお客さんに声をかけてて、それが小春さんの悪口なんだにゃ」

「でも、白菊が頼まれてるのは接客だにゃ? 余計なことはしないほうがいいにゃ」

「そうにゃ。白菊になにかあったら、お蘭様がかなしむにゃ」

「にゃあ」


 白菊は耳と尻尾を垂らした。

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