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「ご注文をお伺いします」
「えっと、っておねえさん! 美人画で描かれてた小春さんだ!」
「わぁ。絵より美人さん」
「あ、ありがとうございます。でも、私なんて本当は、美人画を描いてもらうほど、整った顔立ちはしてませんよ」
「そんなことないですよ! もっと自分に自信を持って!」
「そうそう。あ、注文しなきゃだよね。お団子二つ、お願いします」
「かしこまりました」
同じ女性に久々に誉められて照れながらも、小春は注文を両親に伝えるために、奥へ声をかけにいった。
その様子を店の戸口から見ていた白菊は、安心したように息をついた。
(大丈夫そうですにゃ。白菊もしっかり、お仕事をしなくちゃいけないにゃ)
白菊はそう意気込んで、再び客の呼び込みを始めた。
白菊の働きのおかげか、茶屋はいつも以上に忙しい一日だった。
来る客みんなが、白菊だけでなく小春を誉め、「噂しょせん、噂にすぎないな」と言って、帰っていく。
(これで少しでも、小春さんの評判が上がれば安心だにゃあ)
ふと、白菊は強い視線を感じて、振り返った。辺りを見回し、茶屋から離れた木の影から、じっと店を見つめている人間の女性を発見した。
(あれは誰にゃ? なんで店を見てるにゃ?)
白菊が不思議そうに首をかしげていると、店内から小春がでてきた。すると、視線に怒りが込められたのを、白菊は感じた。だが、小春は視線に気がつかないのか、白菊に声をかけてきた。
「白菊さん。今日はありがとうございました。また明日も、お願いできますか?」
「もちろんですにゃ」
白菊は返事をしながら、ひとつに考えに思い至った。
(小春さんに対する、嫉妬かにゃあ?)
白菊は自分が雌にも関わらず、「女の嫉妬は怖いにゃ」と小さく呟いた。
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