4
お蘭は喜助を見て、小首をかしげた。
「お客さんは、初めていらっしゃる方だねぇ」
「え? 来る客の顔、みんな憶えているんすか? すごいっすね」
喜助が「へー」と感心すると、お蘭はくすくす笑う。
「うちの店を利用してくれる人は、だいたい決まっているからねぇ。どうぞ、そこにおかけくださいな」
上がり
お蘭は店の奥に向けて、声を投げかけた。
「白菊、お客さんにお茶を一つ頼むよ」
「はいにゃ」
返事を聞いたお蘭は、喜助に向き直った。
「さて、ここに来たってことは、うちの子たちの手を借りたいってことだろうけど、どの子の手を貸してほしいんだい?」
「あ、えっと……」
お蘭の問いかけに、喜助は焦った。仁平に「化け猫亭に行って、紅丸を借りてこい」と言われたものの、喜助は「化け猫亭」について何も知らなかったからである。
「すんません。俺、親方にここに行けって言われたけど、この店がなんなのか、いまいちわかっていなくて」
「そうかい。この店は、戸口の立て看板にあったように、化け猫の手を貸すんだよ。化け猫っていっても、私のような人型じゃなく、猫又だけどね。人手の代わりに猫の手を貸すってわけさね」
「はぁ」
説明を聞いても、いまいち理解できない喜助は、気の抜けた返事しかできない。
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