八丁堀までやってきた喜助は、周囲の人に聞き込みをして、やっとのことで仁平が言っていた「化け猫亭」に辿り着いた。


「親方、八丁堀にあるとしか、言ってくれないんだもんな。見つけるのに苦労した」


 喜助はふぅっと息を吐いて、こじんまりとした店を見つめる。


 軒先に下げられた赤い暖簾のれんには、白字で「化け猫亭」と書かれている。そして戸口に脇には、「化け猫の手、お貸しします」と記された看板が、立てかけてあった。


「結局、どういう店かよくわかんねぇっすけど、お店の人に聞けばいいっすよね。ごめんくださーい」


 喜助は声をかけながら、店に入った。

 だが、店の中には人がおらず、帳簿台ちょうぼだい薬箪笥くすりたんすに、お客が腰掛ける上がりかまちに、お客用の座布団が置かれているだけで、ひどく殺風景だった。


(俺以外に客もいないみたいだし……というか、本当にここってお店なんすかね?)


 疑問を抱きながら、喜助はもう一度、声をかけた。


「すんませーん。だれかいませんかー?」

「はいはい。すみません、お待たせいたしました」


 店の奥から、一人の女性妖怪が顔を出した。頭には三毛柄の猫耳が生えており、背後では同じ柄の尻尾が揺れているのが見える。


「お待たせしてすみませんね。私はここの店主の化け猫、お蘭といいます」


 お蘭は、喜助に軽く頭を下げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る