喜助が頭をひねっていると、視界の下から御盆おぼんに乗せられた、緑茶が入った湯呑ゆのみがせりあがって来た。


「お茶をお持ちしましたにゃ、お客様」

「ね、猫がしゃべった!?」


 御盆のかげから、前掛けをすけた白猫が、喜助に笑いかけた。だが、喜助が驚いて飛び上がると、白猫はむっと不満な顔をする。


「白菊は猫じゃなく、猫又ですにゃ。だから人間の言葉を話せて、当然なのにゃ」

「あ、そうなんすか。すんません、驚いたりして。お茶、いただきますね」


 喜助は白猫こと白菊に素直に謝って、湯呑を受け取ると、ずずずずっとお茶をすすった。


「うめぇ! 俺、こんなうまいお茶、初めて飲むっす!」

「よかったですにゃあ」


 白菊は嬉しそうに笑い、尻尾をゆらゆらと揺らした。そのあと白菊は「失礼しますにゃ」と言って、奥へ下がった。

 喜助の気持ちが落ち着いたところを見て、お蘭はさっそく話を切り出す。


「さてお客さん、一息ついたところで、親方さんは誰を借りてこいって言ったんだい?」

「あ、すいやせん。俺としたことが名乗りもしませんで」


 喜助は湯呑をおくと、背筋を伸ばした。


「俺の名前は喜助っていいます。仁平の親方に世話になっていて、今日、見習いから大工になりました!」

「あぁ、仁平の旦那の」


 お蘭は喜助の言葉に納得したようにうなずいた。

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