幕章

 向こうに赤いマフラーを巻いた彼女が見えた。

 今からがいい所なんだけどなぁ。少し中断だ。心配ない。後でちゃんと続きも教える。


「おまたせ」


 なんて白々しい顔で言ってくる彼女は、自分の遅刻をどう思っているのだか。


「ううん大丈夫。さ、行こっか」


 来てくれただけ良しとしよう。誘った本人がすっぽかすなんて聞いたこともないけど。


「で、どこに行きたいんだ?」


 誘ってきたのは彼女の方。何かしら行きたい場所がある筈だ。

 でも彼女はあからさまに目が泳いでいた。少し唸った後、彼女は言った。


「行きたい場所はないんだけど……その……あ、あそこの公園!」


 僕は首を傾げつつ彼女の提案に従うことにした。

 ベンチに座った彼女にお茶を渡して、僕は隣に座る。


「で、どうかした?」


 暗くて少し見えにくい視界の中で彼女は俯いた。


「いや、あの……あの時の返事貰えないかな……って……」


 あぁその事か。確かに良いタイミングかもしれない。


「今、少し時間を貰えるか? そうだな。この紅茶一本分でいい」


「うん、分かった」


 ありがとう。そう心の中で彼女に伝える。


 少しおかしなタイミングだが、さっきの話の続きをしよう。

 彼女があの時言ってくれた言葉。そして僕が下す決断を、一緒に見届けてくれ。

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