夏の思い出

 夏休み。どこかに行く予定は作る気もない。家でのんびりできる時間を大切にしたいんだ。出掛ける予定を作って騒いでいたクラスの中心メンバーとは違うんだよ。

 ダラダラと携帯をいじっていると、彼女からメッセージが来た。


《一緒にどっか行かない?》


 前言撤回。予定が出来てしまった。


《いいよ。どこ行く?》


 取り敢えず当たり障りのない返事をしておいた。

 どうしよう、これでカラオケとか言われてしまったら僕は終わりだ。僕はもう音痴なんて域を逸脱している。

 恥を晒す覚悟を決めて返事を待つ。うーん決めかねているのかなぁ。既読は付いているけどなかなか返ってこない。まさか本当にカラオケ……


《取り敢えず、暑いから中に入れてくれない?》


 確かに今日は暑い。今日はと言うより最近は、連日最高気温を更新している。だから中に入れてくれと言うのは妥当な判断……は?


《ちょっと待て君今どこだ?》


「ここだよ」


 声のした方向を向くと、窓を叩く彼女と目が合った。


「…………」


「え、窓開けて?」


「…………」


 僕はそれどころじゃなかった。思考がショートしているし、まず彼女が僕の家を知っているところから理解不能だ。


「え、死んだ?」


「…………」


「窓割るよ?」


「なんでだよ」


 ツッコミの為に復活した。僕はフラフラと立ち上がって窓の鍵を開け、彼女を迎え入れる。あろう事か彼女はそのままソファに寝転び、スマホをいじり始めた。礼儀なんてどこへやらだ。


「で、なんで家に来たの?」


 そもそも家を教えていないんだよな。普通に怖い。

 でも彼女は当たり前のように言った。


「どっか行こって言ったじゃん」


 確かに言われた。


「だからあんたの家に来た」


「うん意味がわからないね」


「なんでよ」


 いや、え? これって僕がおかしいの?

 頭を抱えていると、彼女はスマホを見たまま言った。


「あ、玄関の前に私の荷物あるから持ってきて」


「……わかった」


 もう彼女に何を言っても意味が無い。そう悟った僕は素直に従う。

 僕が部屋を出る時、彼女はニヤリと笑った。

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