第8話 ボランティア活動[3]

灯火の叫び声に周囲のみんなが向けているジト目は幸いすぐに収まった。今回の引率である時彩先生がやってきたためだ。


「何を騒いでいるんだ?おや、そちらの方はどちら様でしょうか?」


貝谷がここへやってくることは先生に伝えていなかったため、彼女は困惑しているようだ。貝谷はすぐさま、もう一度自己紹介を始める。


「失礼いたしました、私、灯火様にお仕えしています、貝谷 林檎と申します。本日は灯火様に同行して私もボランティア活動に参加したいのですがよろしいでしょうか?」


「ああ、峰鷹家のメイドか。こちらこそ、紹介が遅れました。担任の時彩 芽衣と申します。ボランティア活動に関しては地域の方も参加は自由となっていますので参加することに問題はありません。」


「それは良かったです。本日はよろしくお願いいたします。」


先生と貝谷の紹介が終わると、今回のボランティア活動に関して先生が話し始める。


「さて、本日の私たちの仕事は河川の掃除だ。捨てられているごみなどを拾って川をきれいにするぞ。それと、言っておくがこれはあくまでボランティア活動だ。内申書で評価を受けたいのであればちゃんと働け。お前たちは河川をきれいにするために来たのであって、交友を深めに来たのではないからな。イチャイチャ禁止だ!」


「分かっていますよ先生、ちゃんと働きますから。」




「皆さん、本日はご参加いただきありがとうございます。この河川がきれいに保たれているのは、皆様のご協力のおかげです。それでは、早速始めましょう!」


町内会の会長らしき人間のあいさつと共に清掃活動が開始する。


「さて、私たちの担当は川の中に捨てられているゴミを引き上げることだ。手袋と長靴は用意してあるみたいだから、各々、作業にかかってくれ。」


時彩先生は灯火たちに与えられた仕事を説明するも、その仕事内容に文句のあらしが吹き荒れる。


「先生、まさか、それって一番面倒な仕事を押し付けられたとかじゃないですよね?」


華怜がいたって冷静に、そして冷ややかな目を向けながら時彩先生に尋ねる。


「そ、そんなことはないぞ。これだって立派な仕事だ!」


先生は弁明を行うが、なかなか華怜と目を合わせようとしない。しかし、それに気づかず先生を責め立てる華怜を二人が非難する。


「だ、ダメですよ。先生を疑うなんて、失礼ですよ。」


「そうだよ、市居。今回はたまたまだって。」


優里亜と椎名の二人が先生をかばっていると、貝谷が道具を持って戻ってくる。どうやら、不毛な言い合いをしている間に道具を用意してくれていたようだ。さすがに外面だけはいいことがある。そんな貝谷の発言にみんなが一斉に固まる。


「灯火様、道具をお持ちしました。そういえば時彩先生、先ほど道具を頂いたときに殴られた会長のことは気にしないでほしい、むしろ迷惑をかけて申し訳ないと奥様方に言われたのですが、大丈夫でしたか?」


みんなの目線が一斉に時彩先生に向かい、先生は冷や汗をかき始める。灯火はいったい何があったのかと、先生に尋ねる。先生はキョドリながら事の経緯を話し始める。


「先生、何が大丈夫だったんですか?しかも殴ったって?」


「い、いや、これは違うんだぞ、峰鷹。あいつがいきなり私のおしりを触ってきたから反射的にだな、その、手で振り払ったら顎にあたって大げさに倒れただけだ。」


そんな先生の言い訳を聞き、自分たちの理不尽が目の前の人間のせいで降りかかったものだと分かり、避難の目を向ける。


「やっぱり私の言った通りだったじゃない。」


「先生、どうせ殴るなら記憶が無くなるまで殴らないと、仕返しされちゃうよ!」


「ふぇ、先生、信じてたのに。」


椎名だけは物騒なことを言っている。先生はそんな空気に耐え切れず、そそくさと離れた場所で作業を始めてしまう。


「逃げたわね。」


「逃げたなー。」


「逃げちゃいました。」


この時だけは三人の意見が一致した瞬間だった。

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