第9話 ボランティア活動[4]

灯火も作業を開始し、長靴を履いたまま、川へと入っていく。


「うわ、すごいな。結構ゴミがあるみたいだ。とりあえず僕がゴミを拾っていくから、みんなは引き上げてくれ。」


灯火がそう言うとみんなは灯火からゴミを引き上げ始める。しばらく作業を進めていると、遠くで作業をしている人達から手を貸してほしいと言われる。


「すみません、そこの学生さん方、三人ほど手伝っていただけませんか?」


椎名は灯火からゴミを受け取っていたため、残りの三人はここを離れて、呼ばれた作業を手伝いに行く。


「やっと二人きりになれたね、灯火!まったく、私に教えてくれないなんて水臭いじゃない!」


「いや、悪いな。まさか二人もボランティア活動に興味があるなんて思わなかったんだよ。それに、椎名は部活で忙しいんじゃなかったのか?」


「ああ、それなら大丈夫だよ。時には休むことも大切だからね、何事もバランスが大事だよ。」


椎名はなぜか得意げな表情をしながらドヤ顔をしている。


「まぁ、椎名がそう言うんならいいけど。そういえば、椎名も今年で引退だな、最後の試合は応援しに行くから絶対に勝てよ!」


「よっしゃー!ありがとう。灯火が応援に来てくれれば十人力だよ!絶対に勝つからね!」


椎名は灯火が応援に来てくれることに喜びを隠せないでいるが、華怜から脳なしと言われるだけある。正しくは百人力で、十人力ではない。灯火はそのことを言及せずに話は進路のことへと移り出す。


高校三年生にとって、卒業後の進路は中学から高校に進学する時よりも大事な決断となる。そのため、この時期になると自然と会話のネタは進路のことになる。


「椎名は大学どうするんだ?もう決めたのか?」


「うーん、あたしね、結構迷ってるんだ。親からは将来のことを考えると良い大学に入って、良い会社に就職しろって言われてるんだ。


でも、親が言う大学には剣道部がないから、そうなったら続けることができないかもしれないの。でも、小さいころからずっと剣道一本で育ってきたから、それも捨てたくないんだ。剣道はおじいちゃんからの唯一のもらいものだから。」


椎名は祖父は寡黙な人間であり、ほとんど椎名とは話すことがなかった。しかし、当時の彼女はどうしても祖父にかまってほしかったらしく、そのきっかけに剣道を選んだのだ。


剣を交わす時にのみ祖父と語り合うことができた。そんな彼女の腕前は気づけば大人顔負けのものとなっていたのだ。そんなこともあり、椎名は誰よりも剣道の思い入れが強かった。


「そっか、椎名のおじいさんは確か八段だったっけ?すごいよな、俺には想像できない世界だよ。」


「うん、自慢のおじいちゃんだよ!」


灯火が話をしながら椎名にゴミを渡す。すると、椎名はゴミを受け取ろうと手を伸ばすと地面がコケで滑りやすくなっていたため、体勢を崩してしまう。そのまま、灯火のほうに倒れ掛かってきたため、灯火は椎名を受け止めようとする。


「あぶない!」


灯火は椎名を受け止めようとするも泥に足を取られてしまい、踏ん張りがきかない。二人はそのまま水面へと倒れこんでしまった。


「いったー、ごめん、ごめん。灯火、大丈夫?」


「僕は大丈夫だよ。椎名はケガしてない?」


二人はいったん川岸に上がると濡れた服を絞る。よく見ると椎名の足から血が流れている。


「椎名、足怪我してるぞ!」


「本当だ、さっきは全然気にならなかったけどなんだか痛くなってきた。」


灯火は椎名の前にかがみこみ、背中を向ける。


「ほら、後ろに乗れよ。川の水だから消毒しないとまずいぞ、とりあえず町内会の人たちに頼んで救急箱を貸してもらおう。」


椎名は少々照れながらも、灯火に言われた通り背中に乗る。灯火は椎名を担ぎ上げ、歩き始める。


「重たくない?それに、私、剣道ばっかりやってるから筋肉質だし。」


「重たくなんかないさ、軽い、軽い!それに、今の椎名があるのは、これまでの努力の結果だろ?だったら、自分の努力を卑下するなよ、努力ができる人間はどんなに偉い政治家や有名な先生よりもすごい人間なんだから。誇っていいぞ!」


灯火の言葉に、自分の努力を認められた椎名は恥ずかしくなり、顔を俯き耳元でささやく。


「灯火のバカ。」

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