第5話 あなたは僕のメイドですよね?
「というわけなんだ、貝谷はどう思う?というか、さすがにこれは想定外だ。まさか三人も候補がいるとは。」
屋敷に帰り、今日あったことを貝谷にすべて話す。彼女も婚約者が三人も現れるということは想定していなかったみたいだ。
「灯火様、そもそも婚約者などいたのでしょうか?」
「どういうことだい?」
「婚約者の存在は灯火様以外、だれも知らない。携帯を確認してもその痕跡すら一つもない。これらのことが指す事実は一つしかありません。」
貝谷はまるで名探偵のように淡々と事実を積み重ね、推理を行う。そして、しばらく間をおいてから、その答えを出す。
「真実は一つです。もともと婚約者などいなかったということです。」
「はっ?」
灯火は貝谷が何を言っているか分からず、首をかしげる。そんな彼に対し、温かい目で見つめながらメイドとは思えない辛らつな言葉で灯火を罵り始める。
「灯火様、この年齢の男子生徒にはよくあることです。周りで恋愛の話をしているときに、自分にだけ彼女がいなければ、いろいろ想像したくなるものです。本当は婚約者などいなかったのですよね?わかりますよ、ついつい見栄を張ってしまったのですよね。」
「ちょっと待て!どうして僕がそんな悲しい奴になっているんだ!おまえ、僕のメイドだよな?僕、一応、主人だよな?少しくらい主人を信じてくれませんか?ちょっと辛辣すぎない。」
「いえ、正確には私のお給料を払っているのは旦那様で灯火様は主人ではありません。そういうことは最低でも、自分でお金を稼げるようになってから言ってください」
「はい、すみません。」
灯火は貝谷に言いくるめられ、ついには謝り始めてしまった。しだいに、灯火の肩身はとても小さなものになっていく。
「とりあえず、灯火様が悲しい妄想をしていないのであれば、どうにかして本当の婚約者を見つけ出さねばなりません。それに、本物の婚約者は例の三人の中に絶対にいるとは限りません。それは理解していますか?」
「それは分かっているけど、そんなことあるかな?普通に考えれば、今まで婚約者だったのに、いきなり、その正体を隠して自分から名乗り出ないなんて考えられるか?むしろ、三人のうち一人が本当の婚約者で、残りの二人が嘘を言っているというほうが、しっくりくるよ。」
「それは私からは何とも言えません。世の中の女性には様々な理由がありますから。ですが、これからどうするのですか?何か方法を考えなければ、いつまで経っても分かりませんよ。」
二人は本当の婚約者を探し出すためには、どうすればいいかを考えこんでいた。そんな中、灯火はある方法を考えつく。自分の思いついたアイデアを自信たっぷりに貝谷に話し始める。
「こんなのはどうだ?婚約者であるならば、それまではきっと恋人だったはずだ。そうであるなら、馴れ初めや今までデートした思い出があるはずだよ。それを三人から聞き出せばいいんだよ!どうだ、いい考えだろ?」
そんな灯火に貝谷は納得することなく、ため息をつき始める。
「おい、どうしてそこでため息をつく!いいアイデアじゃないか。」
「灯火様、アホなことを言っていないで、ちゃんと考えてください。いくら記憶がないとはいえ、婚約者かもしれない人に今までの思い出がすべて無くなったから、全部教えてくれって言うんですか?そんな男が目の前に現れたら、私だったらサンドバックにして叩きのめした後に金魚の餌にしてしまいますよ。」
「こえーよ、どうしてそんな考えができるんだよ!手を出す前に、まずは話し合いをしろよ!ここ日本ですよね?」
「そんなこと知ったことではありません、とにかく、そんな馬鹿なことは絶対にしないでください。こちらで何か方法を考えておきますから、今はそれとなく聞いてみるくらいにするんですよ、いいですね。」
「分かったよ、貝谷の言う通りにするさ。」
灯火は貝谷にだけは頭が上がらないのであった。
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