第4話 婚約者は3人!?[3]
驚くべきことに、華怜までもが灯火の婚約者だと言い始めたのだ。三人目の婚約者の出現に灯火の混乱は最高潮に達する。
「ちょっと待ってくれよ、華怜も僕の婚約者だっていうのか?もうどうなっているんだよ?」
ついに灯火は頭を抱えてしまう、そんな灯火を気にすることなく華怜は話を続ける。
「どうなっているも何も、簡単な話だわ。私が本物で、彼女たちが嘘を言っているだけよ。何も難しいことはないわ。」
「いやいや、何でそんな嘘をつく必要があるんだよ、しかも今年になって急に。」
華怜の話から、何故、今日になって婚約者が3人も現れたのかがようやくわかった。
「それは簡単なことね、今じゃ学校中であなたが記憶喪失だってことが広まっているわよ。そのせいじゃないかしら?」
「おい、ちょっと待て、僕のプライバシーはどこへ行った。」
「愚問ね。天下の峰鷹家の長男であるあなたにプライベートなんて存在しているわけ、ないじゃない。」
「マジかよ、じゃあその話を知った人間が婚約者の振りをしているってことか、待てよ、それって華怜も含まれるんじゃないか?」
その言葉に華怜はわざとらしく嘘泣きをする。
「シクシク、灯火君、私は悲しいわ。あなたとの真実の愛を偽物だと思われるなんて。きっとそのうち男子生徒からも婚約者だって言われるわね。あなたがそんな性癖に目覚めるなんて悲しいわ。」
「泣きまねをするのなら、せめてもう少し感情を入れろよ。それに、おれをBL展開にするな!そんなことよりも、婚約者が三人なんて、僕はどうすればいいんだ!」
困り果てている灯火に華怜は解決策を提示してくる。
「そんなの決まっているじゃない、灯火君。彼女たちに君たちは僕の婚約者じゃないと伝えるだけのことよ、あなたの婚約者は私、ただ一人だけなんだから。」
その時、教室の中に椎名の叫び声が響き渡る。
「ちょっと待ったー!コラー!市居、あんたなんで灯火の婚約者になっているのよ!それに、どうして私が偽物になっているのよ、このひきこもり!」
「あら、木武さんじゃない、私は本当のことしか言っていないわよ、灯火の婚約者は私だもの。ああ、ごめんなさいね、あなたみたいなネズミの脳みそじゃ理解できなかったかしら?
いえ、これではネズミに失礼ね、あなたの脳みそはミジンコなみね、つまり文字通り脳無しってことよ、理解できるかしら?」
「なんだとー!年中ひきこもっている、あんたにだけは言われたくないわよ。」
「私は引きこもりじゃなくて、チェスという知性が必要な遊戯を学んでいるだけよ!」
この二人は馬が合わず、いつも罵り合っているようだった。3人集まれば女々しいというが、彼女たちは二人だけでも十分だ。灯火が現実逃避をしていると、ふいに誰かに手を握られる。
「先輩、私以外に婚約者がいるなんて嘘ですよね?」
そこにはウルウルと泣きそうな顔をしてこちらを見つめる優里亜がいた。
「ゆ、優里亜!ちょ、泣くなよ。」
「目黒さん、あなた、また灯火君を誘惑しているの?抜け駆けは禁止よ!」
「そうだよ、ゆりちゃん!灯火は私の婚約者なんだから誘惑禁止!」
「ち、違います!先輩は私の婚約者です!お二人の婚約者じゃありません!」
灯火が目の前の惨状に混乱してしまい、絶叫する。
「もう、いったいどうなってるんだー!」
ようやく、彼女たちの罵り合いが落ち着き、ひと段落する。いつまで経っても、灯火の本当の婚約者が分からないため、どうしようかと考えていたが、ふいに華怜が提案をしてきた。
「灯火君、こんなのはどうかしら?記憶がないのなら、私たちの三人の中で誰が一番あなたの婚約者にふさわしいかをもう一度選ぶの、本当の婚約者なら、たとえ記憶が無くなったとしても再び惹かれ合うはずでしょ。まぁ、もっとも、選ばれるのは私だけど。私が本当の婚約者なのだから、きっともう一度選んでくれるわよね?」
「上等じゃないの、市居!いいわ、灯火に選んでもらいましょう!でも、選ばれるのはあんたじゃなくて私よ、わ・た・し。」
「ゆ、ゆりも賛成です、先輩ならきっと本当の婚約者を選んでくれます!」
(僕の意見は尊重されないのか、だが、これはチャンスかもしれない。もしも、この中の1人が本当の婚約者なら3人とこのまま過ごしていれば、何かの拍子に思い出すかもしれない。そうならば、この状況はむしろチャンスかもしれない。)
こうして、灯火は華怜の提案を受け入れるのであった。
「分かったよ、確かにこの中に婚約者がいるなら、一緒に過ごしているうちに何か思い出すかもしれない。それに、記憶を失っても、この気持ちが本物なら自然とその婚約者にひかれるはずだからね。」
そんな話をしていると、イライラしながら教室のドアにもたれかかり、こちらをにらみつけている先生がいた。
「オホン、お前たち、すでに下校時間は過ぎているぞ。それと、私の前でイチャイチャするとはいい度胸だな!峰鷹、私は男女間の交友は禁止といったはずだがもう忘れたのか?しかも、婚約者だと?学生のくせに、いいご身分だな。」
「せ、先生。これはですね、マリファナ海溝よりも深~い、深~い訳があるんです。それはもう大変なわけが。」
そんな灯火の言い訳も通用せず、時彩先生は仁王立ちで灯火たちをにらみつけている。次第に、無言の圧力に耐えきれなくなり、帰りの支度を始める。
「まったく、私たちの時間を邪魔しないでほしいですね、そんなのだから合コンで誰にも相手にされないんですよ。」
「ほんとだよ~、先生は厳しすぎるよー、学生には潤いが大切だ!」
華怜と椎名が二人そろって先生に文句を言い出すと、今まで放っていた無言の圧力がさらに強くなった気がする。気のせいかもしれないが部屋の温度が下がっている気がしたのだ。ようやく二人も、このままではまずいと気づき、帰りの支度を始める。
「そ、それじゃ先生、さようなら。」
「まて、峰鷹、そういえば、事故にあって記憶がないらしいな、大丈夫なのか?」
灯火が帰ろうとすると、時彩先生がそれを止める。どうやら、灯火が記憶喪失であることは彼女にまで伝わっているらしい。
「ええ、大丈夫です。生活する上では問題ないですので。」
「そうか、それならいい。だが、男女間の交友を行うことはその理由にはならないぞ。分かったならさっさと帰れ。」
時彩先生はきりっとした目で灯火をにらみつける。灯火は他の三人と一緒に急いで帰宅するのだった。しかし、灯火の心の中では婚約者が三人もいるという事実に、これからどうしたものかと、頭を抱えるのであった。
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