第3話 婚約者は3人!?[2]

「おーい、灯火~こっち、こっち!」


クラスに入ると灯火を呼んでいるのは椎名だった。どうやら彼女も同じクラスになったようだ。


「やった!灯火と一緒のクラスだ、これで一年間ずっと一緒に過ごせるね!」


「そうだな、一年間よろしくな。」


椎名とたわいのない話をしているとこのクラスの担任である先生が教室に入ってくる。


「おーい、全員静かにしろ、ホームルームを始めるぞ!まず、私が一年間、君たちの面倒を見ることになった時彩 芽衣(ときあや めい)だ、よろしく。さて、私の自己紹介が終わったところで君たちに一つだけ言っておくことがある。今年は受験の一年だ!そのため、男女間の交友は禁止とする!君たちには恋愛にうつつを抜かしてもらっては困るからな。いいな!」


その言葉にクラスの生徒たちからはブーイングが起こる。そのうえ、ブーイングに隠れて失礼なことを話しあっている生徒たちまでいる。


「先生、そんなの横暴です!私たちの青春を取り上げる権利はないと思います。」


「そうだよ、芽衣ちゃん先生、そんなかたいこといわないでさ。」


「きっと先生、また合コンで失敗したんだぜ、いつまで経っても売れ残っているから俺たちの青春を見てたら、やるせない気持ちになるんじゃないか?」


生徒たちのブーイングに時彩先生は教卓に足をかけ、怒り出す。


「お前らうるさいぞ!ここでは私がルールだ!あと、先生のことを名前でちゃん付けするな。それと、そこの男子!私は合コンになんか行っていないし、売れ残りじゃない!それに、私がいいって言ってくれた大切な人がいるんだぞ!」


時彩先生は自分で言っていて恥ずかしいのか徐々に顔が赤くなっているのが分かる。そんな彼女を青春真っ盛りの彼らが放っておくわけがない。そこからクラスの雰囲気はさらにヒートアップする。


「ヒュー、ついに先生も年貢の納め時ですね、先生~、彼氏紹介してください~。」


「先生かわいい~、次のデートはいつですか~?」


そこからは、クラス全員で先生をいじり始める。次第に耐え切れなくなった先生はホームルームを終わらせる。


「う、うるさい!お前たち、大人をからかうな!今日のホームルームはこれで終わりだ!解散、解散!」


ホームルームが終わり、各々が教室から去っていく。急いで荷物を片付けている椎名に灯火は話しかける。


「椎名、今日もこれから部活か?」


「うん、もうすぐ大会があるからね、じゃあもう練習に行くね。またあとで!」


「練習がんばれよ、またあとでな。」


椎名はそう言うと駆け足で教室を出ていく。灯火は椎名を送り出すと自分も部活に行くために準備を始めるのだった。


灯火は頭を使うゲームが大好きだった。昔から戦略を考えることが好きで、気づけば屋敷では敵なしであった。そんな彼だからこそ、部活紹介で紹介されたチェス部に入部しないはずがなかった。


今ではもともといた先輩達も卒業してしまい、部員は灯火を含めて二人となっていた。いつものように部室へ向かうともう一人の部員である市居 華怜(いちい かれん)がすでに待っているようだった。


「遅いわよ、灯火君、早くゲームを始めましょう。」


彼女はこの界隈では非常に有名なチェスプレイヤーであり、世界大会の優勝経験もある。彼女との出会いはこの部活だった。当時、彼女は負けなしの存在でとても退屈しているようだった。


新入部員の歓迎会で先輩たちとプレイを行うイベントがあったが、彼女の前ではまったく相手にならなかった。その結果に彼女は落胆していたが、そこで現れたのが灯火である。


灯火は今まで負けなしであった華怜に対して、いとも簡単に勝ってしまったのだ。そこからは本当に大変だった、今まで負けたことがなかったためか、悔しさからか大泣きし、手が付けられなくなったのだ。


そのまま彼女は帰ってしまい、このまま二度と現れないのだろうかと思っていたところ、翌日に彼女がチェスボードの前で待っていた。そこから華怜とのプレイの日々が始まり、今でもそれが続いている。


「ボケっとしていないで、早くやりましょう。今日こそは私が勝つわ。」


ちなみに、華怜が灯火に勝てたことはない。そのため、いつか灯火を倒す日を夢見て、華怜は暇なときは、いつも修行中らしい。


「分かってるよ、それじゃあ始めようか。」


駒を進めていると、灯火は婚約者の話を始める。婚約者が二人もいるなんてこと、誰かに話さなければ自分一人で抱えるのは難しいと考えていたからだ。


頭脳派の華怜なら何かいいアイデアがあるのではないかと一図の望みをかけ、彼女に意見を求めようとする。


「そういえば、聞いてくれよ。今日、椎名と優里亜の二人から俺が婚約者だって、いきなり言われたんだよ。しかも、俺から婚約したらしい、でも、婚約者のことなんて全然記憶にないんだよな。どうやら、事故のせいで婚約者のことを忘れてしまったらしいんだよ。どうしたらいいと思う?」


コトン。華怜がナイトをボードから落としてしまう。


「灯火君、今なんて言ったのかしら?婚約者が二人いる?それは興味深いことね。」


華怜は冷ややかな目で灯火を見つめる、華怜の態度に灯火は冷や汗をかくものの、事故のせいだと説明をする。


「確かにお前の言いたいことは分かるよ、婚約者が二人なんて不純だって言うんだろ、だけど本当に記憶がないんだよ。思い出そうとしてもどうしても思い出せないし。」


事故のことを説明するも、華怜から聞かされた答えにさらに混乱することになる。


「私が怒っているのは婚約者が二人いることではないわよ、ど・う・し・て・婚約者である私がいるにもかかわらず、ほかに婚約者がいるのかしら?」


「う・そ、だろ。」


静かな教室にその言葉だけが、発せられた。

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