第98話 再会

 アンは帝都の南にある小さい村、そこの離れにある民家にお世話になっていた。


 そこはアイスホークの下に付く女性士官の自宅である。


 カズマがその家を見つけて訪ねると、アンがすぐに顔を出し、抱き着いてきた。


「ちゃんと連絡届いたのね? それにカズマが無事でよかった! ──大丈夫だった? ランスロットのおじさんには会えた? セイラおばさんが──」


 アンはカズマの無事を確認すると矢継ぎ早に話し始めた。


「落ち着いてアン。お父さんにはちゃんと会えたよ。元気でやっていると伝えてくれって言われた。お母さんの事も話は聞いている。アンも大変だったね」


 カズマは抱き着いたままのアンの背中をさすり、労を労った。


「……うん。不安だったけど、ちゃんと連絡届いてよかった……」


 アンはそう言うと少し涙ぐむ。


 母セイラの事が心配でずっと緊張が続いていたのだろう。


 そして、カズマと再会できて、優しい言葉をかけられた事で、全てから解放されたように泣き出したのであった。


「それで、お母さんはどういう状況なのかわかる?」


 カズマはしばらくアンの背中をさすって泣くに任せていたが、落ち着いてきたところで、状況を聞く事にした。


「……うん。アイスホークさんの話だと、セイラおばさんは皇帝の誕生祭剣闘士大会のメインイベントで剣聖と名高いカーズマン一振斎の最後の弟子と言われている最強剣闘士とその取り巻きとの三対三の試合を組まれているみたい。でも、相手は帝都で腕を磨いて連携もばっちりだけど、おばさん達は地方から集められた三人だから、皇帝が一番推している剣闘士に勝たせる為の茶番だろうって……」


「……お母さんは客寄せ、……か」


 カズマは怒りが沸々と沸き起こってくる……。


「どうすればいいと思う? おばさんとは連絡が取れない状態だし、私は帝都の剣闘場では顔が知られているから、近づけないし、どうしていいかわからないの……」


 アンは追いかけて帝都まで来たものの、何もできずにいる事に自分を責めていたのかもしれない。


「アンはここでもう少し、待機していてくれる? お母さんを逃がす時に力が必要になるかもしれないから」


 カズマはアンにも協力する機会があるとばかりに声をかける。


「……うん、わかった。その時は駆けつけるから」


 アンはカズマの気遣いだとも思ったが、だからと言ってわがままを言って困らせたり、不用意な行動をとって迷惑をかける気もないからそう返事をする。


「じゃあ、僕は情報収集してくるよ」


 カズマはそう言うと、アンから体を離す。


 アンは名残惜しい様子だったが、


「危険になったら逃げるのよ」


 とお姉さんとしてのアドバイスをするに留めた。


 カズマは頷くと武器収納から脇差しを取り出して、いつもの通り『霊体化』すると、アンのもとから消え去るのであった。



 カズマは最初、アンを保護してくれたアイスホークがいるという帝都郊外での軍事訓練場に『霊体化』したまま赴いた。


 だが、そこには常に多くの兵士達がいて、とてもではないが、面会をお願いできる雰囲気でもない。


 だから、兵士達の会話を『霊体化』状態で盗み聞きしたが、どうやら数日後から一週間行われる誕生祭の最終日に皇帝の御前で模擬戦を見せる事になっているらしい。


 という事はそれまで、アイスホークとは連絡が取れないという事だ。


 だから今回は頼る事が出来なさそうである。


「……帝都の情報はアイスホーク殿以外に頼る人がいないでござるが……、仕方ないでござる……。某が自力で収集するでござるか」


 カズマは軍事訓練の様子を上空で浮遊しながら、そうつぶやくと帝都に引き返すのであった。



 カズマは基本として、まず、母セイラの居場所を確認する為に、剣闘場をくまなくチェックした。


 南部デンゼルの街の剣闘場も大きくて立派な会場であったが、帝都のものはさらに装飾が華美でとても整備が行き届いていた。


 きっと、皇帝誕生祭が迫っているので、なおさら補修なども徹底的になされているからだろうが、カズマは無駄に金のかかったこの剣闘場があまり好きにはなれない。


「これが全て税金だと思うとぞっとするでござる……」


 カズマはそうぼやくと、ふわふわと飛んでさらに見て回る。


 地下に行くと、そこには地下剣闘場とも言うべき大きな空間が広がっていた。


「……地下までお金がかかっているでござるなぁ」


 カズマは呆然としながら、そこで訓練を行っている剣闘士達を確認する。


 どうやらそこに母セイラの姿はないようだ。


 沢山の控室なども一つ一つ見て回るが、その姿はない。


 女性剣闘士は何人もいたが、母ではなかったのだ。


「……そうなると本番まではどこかの剣闘士ギルドの施設で待機でござろうか? しかし、今は犯罪奴隷から解放された身。自由はあるはずでござるが……」


 カズマは何やら不穏なものを感じたが、やはり、茶番試合の対戦相手だから、ぎりぎりまで自由を与えず、殺させるつもりだろう事は多少想像もついた。


「そうなると接触は難しいでござるか……。母上、無事でいる事を願っているでござる……」


 カズマはそう祈ると、また、会場の間取りを確認するべく地上へと飛んでいくのであった。

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