第96話 みんなの行方
カズマはアンとの再会場所であるデンゼルの街には一週間後戻る事にして、今は母セイラと連絡を取る事にした。
幸い母セイラは犯罪奴隷剣闘士としてデンゼルの街か剣闘士ギルドの施設にいるのがわかっているから探す必要もない。
連絡を取るにしても『霊体化』があれば何とかなる。
もしかしたら、その間にアンと再会できるかもしれない。
カズマはそこまで計算してまずはセイラのもとへ『霊体化』でふわふわと飛んでいくのであった。
カズマはまず、ギルドの施設へと向かった。
部屋の場所も知っているし、慣れたものである。
だが、そこには母セシルの姿はなかった。
「という事は、剣闘場でござるか」
カズマはそう理解すると今度はデンゼルの街の剣闘場に向かう。
だが、この日、剣闘場で母セイラの試合は組まれておらず、当然ながら母セイラは仲間の犯罪奴隷剣闘士達の試合を観る姿もなくどこにもいなかった。
「おかしいでござる……。母上がいないでござるな……」
カズマは首を傾げた。
これは詳しい人に確認した方がいいかもしれない。
そう考えると、カズマは剣闘場傍の木陰で『霊体化』を解き、剣闘場の入り口付近で商いをしていて、つい最近お世話になったばかりのカセギーノ商会会長のところに赴いた。
「お? カズマじゃないか。最近、顔を見なかったが何をしていたんだ?」
カセギーノ会長は丁度時間的に手が空いていたので、カズマのところに来て声をかけた。
「先日はお世話になりました。……ところで、おか……女性仮面剣闘士アンを見かけませんけど、何かあったんですか?」
「うん? お前はこの数日、街にいなかったのか? あの大人気の女性仮面剣闘士アンは、先日、帝都の御前試合に緊急召集されてこの辺りは大騒ぎだったんだぞ? なんでも全国の強い剣闘士を集めて皇帝陛下の誕生日を祝うのだとか……。お陰でこの数日、一気に客足が遠のいて困っているよ」
「え? 緊急招集!?」
「ああ。本当は別の剣闘士が参加予定だったんだが、負傷して空きができたらしくてな。そこに皇帝陛下が強い女性剣闘士がデンゼルの街にいると誰からか聞いて興味を持ったらしく、急遽呼ぶ事になったらしい。剣闘士アンは、犯罪奴隷だから本当は御前試合なんて呼ばれないんだが、皇帝命令で奴隷から解放されて資格を得たらしいぞ」
「じゃあ、今頃は?」
「帝都に向かって馬車の上だろうな。ここからだと帝都まで三週間近くかかるが、御前試合もすぐだから、ぎりぎりだろう。ところで姉のアンはどうした? いないみたいだが?」
カセギーノ会長は前回稼がせてもらったこの姉弟がお気に入りであったから、アンがいない事を気にかけた。
「姉とは今、別行動なんですが、こちらに来ていませんでしたか」
「なんだ? 姉弟喧嘩か? アンはそう言えば、数日前にこの近くで見かけた気もするが……。確かカズマが傍にいないからあの時は別人かと思ったんだったな……。だが、別行動しているなら、あれは本人だったのかもしれない」
カセルギーの会長は思い出したとばかりに数日前を振り返って告げた。
……という事はアンはお母さんが、帝都に召集されたのを知ってあとを追いかけた可能性があるという事か……。そうなると僕も追いかけた方がいいのか? でも、違ったら一週間後この街でアンと落ち合えなくなる事にもなるし……。
カズマは考え込むと頭を悩ませた。
「なんだ、そんなに仲直りを悩むほど喧嘩したのか? 姉弟なんだどちらか謝ればすんなり元に戻るさ」
カセギーノ会長は勘違いしてカズマにアドバイスを送る。
そんなカズマは、
アンは誰かに言伝を頼むと思っていたのだが、カセギーノ会長ではなかったみたいだ。そうなると他に誰に頼む? この街の宿屋の主人? ……いや、素泊まりしただけだから全く関係性がない相手だ。言伝を頼むほどではない。じゃあ、誰だ?
とますます考え込む。
「……本当に大丈夫か? 完全にはぐれる前に二人で行った場所にでも行って頭を冷やせ。二人で頑張ったところを振り返り、姉弟一緒が一番だと再確認しな?」
カセギーノ会長はそう言ってカズマの背中を叩く。
そこでカズマはハッとする。
それはこの広場の初日に稼いだ場所の隣で稼いでいた行商の事だ。
彼は自分達に稼がせてもらったと恩を感じていたから、アンも言伝を頼みやすかったかもしれない。カセギーノ会長相手だと、また、うちで働いてくれとお願いされるだろうから、避けたのかもしれない。
カズマはそう考えに至る。
「すみません、思い出した場所があるので行ってみます」
「ああ、見つけたら素直に謝るんだぞ? そして、また二人でうちで働いてくれよ? はははっ!」
カセギーノ会長は案の定勧誘すると、カズマを送り出すのであった。
以前稼いだ場所の近くには思っていた通り以前もいた行商がいた。
「お、あの時の! 言伝を聞きに来たのか? ……という事はこの数日、まだ、会えてないのかお姉ちゃんと」
行商はカズマの顔を見るなり、そう応じた。
「アンからの言伝があるんですか!?」
カズマは正解だと安堵しながらも、慌てて確認する。
「お、おう。えっとな……。『私は後を追うけど、カズマはおばさんの仲間と接触して、みんなに協力して頂戴』だってよ? どういう意味だ?」
行商は意味が分からない言伝だったので、カズマに意味を聞く。
……お母さんの仲間? という事は犯罪奴隷剣闘士仲間の事か? その彼らと接触して協力という事は、一斉蜂起の事だろうか? お母さんは犯罪奴隷から解放されたから心配しないでいいという事かな? 二人が一緒なら安心かもしれない……。
カズマはそこまで考えると行商にお礼と共に大銅貨を一枚を渡す。
「おいおい、前回稼がせてもらったっていっただろう。そんな相手からこのくらいでお金を貰えるかよ。それより、行きな。何かあったんだろう?」
行商はカズマの真剣な表情から何かを察したのだろう、大銅貨を押し戻して、行くように促す。
「ありがとうございます!」
カズマは行商の義理堅さに感謝すると、その場をあとにするのであった。
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