第75話 下賜の剣の行方

 盗賊団『銀狼の尾』の首領、ダンは自室で考え事をしていた。


 そこに自室の扉をノックする音が聞こえる。


「誰だ?」


「ボス、客人が来ています」


 ……子供の声?


 ダンは声の主に聞き覚えがない事にすぐピンときた。


「ちょっと待て、……今行く」


 ダンはそう応じると、脇に置いてあった剣を抜き扉の前に移動する。


 そして扉に付けてある小さいのぞき窓から外を覗く。


 だが、視界には誰も見当たらない。


「? (どこに行った?)」


 声の主がいない事に少し困惑するダンであったが、声の主は子供、扉の手前にいるのかと思い、念の為、下も覗いてみるが誰もいない。


「……」


 ダンは部下の悪戯だったのか? と首を捻ると剣を構えたまま扉を開けた。


 やはり誰もいない。


 通路の先の扉の手前の罠も解除されていないようだ。


「……幻聴だったのか? おい、誰か、ここに人を通した奴はいるか?」


 ダンは自室から出ると通路に向かい、その先の部屋にいるはずの部下達に声を掛ける。


 ボスの声がしたので、急いで罠の仕掛けを外してから扉が開き、そこから部下がこちらに顔を出した。


「何ですか、ボス?」


「今、誰かここに人を通したかと聞いているんだ!」


「? いえ、誰も通してませんぜ? ──なぁ?」


 部下は他の仲間にも聞く。


「へい。ここを通った奴は誰もいませんよ? ──これなんかのテストですか?」


 怪訝な顔をした部下達はボスであるダンの悪ふざけだと思ったのか疑問を口にする。


「……ならいい。……持ち場に戻れ」


 ダンは自分の聞き間違いだったのか? とまた、首を捻ると自室に引っ込む。


「……」


 ダンは自室に戻ると、部屋に違和感を感じる。


「何かさっきと違う気がする……。(室内の周囲に視線をキョロキョロと動かして)……あ! 机の後ろに飾ってあった剣がない!」


 ダンはそう気づくと、飾ってあった壁まで歩み寄った。


 すぐに誰かが隠れられそうな机の下やトイレなど見て回るが誰もいない。


 それに、この地の領主シアンの屋敷から盗み取った片刃の珍しい剣がどこにも見当たらない。


「どうなってやがる……。この部屋には俺以外誰も……」


 とつぶやいて振り返った時である。


 丁度そこに、剣を片手に扉を開けて出て行こうとする子供の姿を視界にとらえた。


「!? どこから現れやがったガキ! その剣は俺のだぞ!」


 ダンは慌ててその子供の後を追いかけようとした。


 その子供、カズマは急いで扉を開けると、外に出てすぐに扉を勢いよく閉める。


 ダンはそれを追いかけて扉を開けると、そこにはすでに誰もいない。


「!? どうなってやがる……? おい、誰かそっちに子供が行ったぞ! 捕まえろ!」


 ダンはどんな手段かわからないが、子供がこの罠のある通路を高速で移動したと無理な解釈をするとその先の部屋の部下に声を掛けるのであった。



「……ふぅ。危なかったでござる……。結界のせいで外に出る時も一旦『霊体化』を解かないといけなかったでござるが、部屋が狭いと解くタイミングが難しいでござるな」


 カズマは『霊体化』した状態で冷や汗をかくと急いでアンのいるシアン男爵邸と飛んでいくのであった。



 カズマはアンと合流すると、一部始終を説明し、武器収納から盗み返した皇室よりシアン男爵家に下賜された片刃の剣を出して見せた。


「え? (それってカズマの持っている刀と同じ形じゃない!)」


 アンが筆談で驚くのも当然である。


 カズマの武器収納に収められる武器は刀系統しか不可能であった事からもアンの指摘通りそれは刀であった。


「はははっ!(僕もびっくりしたけど、刀は珍しいだけで存在しないわけではないからね。すぐにこれだと思って盗んできたよ)」


 カズマの言う通り、その刀の柄には帝国の皇室所有だった事を表す紋章が入っている。


 カズマはすぐに武器収納にその刀を戻すと、


「びっくりしたでしょ? (これは隠したままにしておくよ。今見せたのは、占いの時に特徴を言い当ててこちらが言う事を信じさせる為。盗賊団の場所も詳しく説明するね)」


 と口でアンの驚いた声に合わせて指摘しつつ筆談を続ける。


「もう、驚かせないで! (わかった。あとはその後、ここを脱出するかだけど……)」


「ごめんごめん。(それについては、僕に考えがあるよ)」


 カズマはそう筆談で説明を続けると、アンもその内容に頷き、その筆談内容の紙はアンの魔法収納に隠されるのであった。



 その翌日。


 朝食を取り、十分な休養を取らせただろうという事で、再度、刀の場所について占いをするようにアンとカズマにシアン男爵は促した。


「──それでは……」


 アンは前日同様、木の箱にカズマを入れて、自分はその上に両手を置いて占う素振りを見せる。


 しばらくの間、呪文を唱えるようにぶつぶつとつぶやき続けた。


 そして……、


「東の街道沿いの山からさらに奥、獣道を進んだところに人影が見えます。さらにその奥に進まないといけない様子……。森に溶け込んだ先に柵に覆われた大きい洞窟が見えます。そこから強い気配を感じます。そこにご依頼の物を盗み出した者がいるようです」


 とアンはカズマの説明通りに盗賊団の拠点までの特徴を伝え始める。


「おお! そこに我が家から盗まれた大事な剣が!?」


「──どうやら何か阻害する何かがある様子。……これ以上は私にもわかりません」


 アンはあくまでも強い気配を感じるとしか言わず、そこに探している帝室から下賜された刀があるとは言っていない。


 カズマのアドバイスで結界の存在を利用してうまく言葉を濁す。


「よし! これまで探しても全く見つからなかったが、そこまでわかれば、大丈夫だ! 領兵隊長に命じて討伐準備をさせよ! 憎き盗賊達を滅ぼすのだ!」


 シアン男爵は完全に信じているアンの占い結果に勢いづくと、執事に指示を出すのであった。

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