第74話 盗賊団の拠点へ

 カズマは近隣の盗賊情報を求めて、シアンの街へと『霊体化』した状態で向かった。


 人通りのない路地裏で『霊体化』を解き、通りの食堂に赴く。


 そこで、旅先での携帯用と称して持ち帰りの食事を注文すると、食堂の従業員に話を聞く。


「お姉さん、これから僕、よそに旅へ出かけるつもりなんだけど、この辺りって盗賊とか出るのかな? そういう場所は避けて行きたいんだ」


「あらら、あんた、その歳で一人旅かい? そうだね……、この辺りの盗賊と言えば『銀狼の尾』という盗賊団には気を付けた方が良いかもしれないわ。確か東の街道沿いにある山にねぐらがあるって噂だから、そこを通るなら、大きな商隊の後を付いて行きな。それならまだ、安全だろうね」


 話好きな従業員のおばさんは、カズマの心配をして、そうアドバイスをくれた。


「ありがとう、お姉さん!」


 カズマは携帯用に食事を包んでもらうと料金を支払い、お礼を言う。


「気を付けなよ? 盗賊団は容赦のない事で有名らしいからね」


 お姉さんと言われたおばさん従業員は気分を良くして最後まで心配してくれるのであった。


 カズマは二人分の食事を手にしたまま、路地裏に向かうと、次の瞬間には煙の如く消え去る。


「東の街道沿いの山……、あれでござるかな?」


 カズマはいつものござる口調が出ると、『霊体化』で高く浮上して行き、街の東側を見ると街道に面して大きな山を確認する。


 その背後にも山が連なっているのが見えた。


「早速、捜すでござる」


 カズマはそう言うと、ふわふわと東の街道に向かって飛んでいくのであった。



 カズマの『霊体化』は、王国に平和が訪れた三年の間に、移動速度は少し上がっていたから、東の街道まではあっという間であった。


 カズマはそこからまた、山を見降ろせるところまで上空高く浮上し、速度を落として山中を見て回る。


 しばらくの間、見て回っていると、山の頂近くの大きな木があり、そこに人工物の見張り台がある事に気づいた。


 近づくとそこから街道が見下ろせる絶好な位置にある大木で、その木には梯子が掛かっている。


 そこに一人、毛皮の服を纏った無精ひげの身なりが良いとは言えない男が街道を見張っていた。


 木の下にも待機している同じような身なりの男がいる。


「これは盗賊団の一味っぽいでござるな……。周囲に人は……、あ、馬が一頭繋がれているでござるな。……という事は、この細い道の先が……」


 カズマは道を辿るように飛んでいく。


 しばらくその道を進むと山の頂を迂回するように、その裏の山の麓に続き、さらに進むと急に道が途絶えた。


「? ……行き止まりでござるか?」


 カズマは『霊体化』したまま首を傾げると茂みを突っ切っていく。


 すると茂みを突っ切った先に開けた場所があり、そこには数人の盗賊と思われる男達が小さい小屋の外でたむろしていた。


「噂と違って小さい盗賊団でござるか? いや、そうではないでござるな……。ここは偽拠点でござろう。本拠点はさらに奥でござるな」


 カズマはすぐにそう見破って確信した。


 その場で浮上して上空から見ると、先程と同じように、茂みの先に馬が一頭繋がれていて細い道が奥に向かって存在したからだ。


「かなり慎重な盗賊団でござるな。でも、某には通じないでござるよ」


 カズマはふわふわと飛んでそのあとを辿っていく。


 すると、森の木々に紛れて、柵に覆われた場所が上空から見えてきた。


 周囲の木々が高いので、真上から見降ろさないと気づけない場所だ。


「これなら中々見つからないはずでござるな」


 カズマは感心すると降りていく。


 その柵で覆われた場所には、盗賊団の見張りが出入り口に二人立っており、そこを抜けると小屋が数個あり、そこには何名もの盗賊が待機している。


 そして、さらに奥に進むと、大きな洞窟があった。


 その出入り口は厳重に壁と扉で塞がれており、さらにはまた、見張りが二人立っていて、通常の侵入はかなり難しそうだ。


 だが、例外中の例外である『霊体化』中のカズマは見張りも関係なしに奥に入っていく。


「これは想像以上に大きな盗賊団かもしれないでござるな……」


 カズマはランタンで照らされた洞窟内部の通路を奥に進んで行くのだが、その間も数名の盗賊と遭遇する。


 これは外部の人間が潜入するのは不可能だろう。


 それに至る所に罠が設置してあり、いつでも稼働できるようにしてあるようだったから、この盗賊団の首領はかなり慎重な男のようである。


 カズマはそれらを確認しながら先に進むと大き開けた場所に出た。


 そこはこの盗賊団の大広間のようで、机や椅子が沢山並んでおり、そこで寛いでいる盗賊の姿も多い。


 その大広間から奥にはいくつもの洞窟が続いていて、扉で遮られている。


 カズマは一番怪しいと思われる豪華な扉を『霊体化』のまま、すり抜けていく。


「ここを攻めるのはかなり難しいでござろう……。やるなら盗賊団が出撃した時くらいでござるな」


 カズマは兵法家気取りでそう感想を漏らすと、暢気にふわふわとさらに奥へと進む。


 そこは、カズマの想像通り、盗賊団の首領の部屋へと続いていた。


 途中、小さい部屋があり、そこには、部下が二人待機している。


 さらに扉で仕切られ、すり抜けて扉の奥を覗き込むと、そこには扉を開けた時、矢が飛び出す仕組みになっているのがわかった。


 きっと、手前の部屋と、奥の首領の部屋からしか解除できない仕組みだろう。


 カズマはそれらにまた、感心してその通路を進み、いよいよ首領の部屋の扉の前にきた。


 カズマはそのまま扉をすり抜けようとしたが、見えない壁にぶつかるように、遮られた。


「……驚いた。これは結界でござる……」


 カズマはまさか盗賊風情が自室に結界を張っているとは思わず、驚く。


「……仕方ないでござるな」


 カズマは扉の前で不意に『霊体化』を解いて人に戻ると、堂々とその扉をノックするのであった。

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