第53話 王都の事情

 カズマは王都にあるドッチ男爵の屋敷に到着すると、丁重な出迎えを受けた。


 屋敷を任されている執事が、全ての事情を知らされており、カズマについても貴賓として扱うように厳命されているようだ。


「国王陛下との面会を取り付ける事は出来ませんでしたが、ご嫡男であるトリスタン第一王子との約束は取り付けられました。そちらにカズマ殿からこちらの真意を聞いてもらい、カズマ様が持ち込んだ書状の数々を提出される事で、王子から陛下に渡してもらうのが無難かと思います」


 執事はこの数日、この為にかなり動いてくれたのか目にクマが出来ている。


 寝ずに方々に動いて王子との面会を取り付けてくれたに違いない。


「……わかりました。僕一人では会う事も叶わなかったかもしれないので、ありがとうございます。その手順でお願いします」


 カズマはドッチ男爵の配慮に感謝しつつ、数日後の面会に備える事にするのであった。



 カズマは男爵邸でまずは、服を仕立ててもらった。


 王子との面会にはさすがに旅装で会えるわけがない。


 敢えて旅装姿で面会する事で説得力が増すとも思えるが、やはり、礼儀が先だ。


 カズマは仕立屋に採寸されながら、ドッチ男爵の執事から王都の内部事情を聴く事になった。


 王都内部では、最初、アークサイ公爵が王家の許可を強引に取って兵を王都内に入れたので、ホーンム侯爵がこれに怒って兵を上げ、王都に乗り込んできた。


 ホーンも侯爵も王家から強引に王都内の治安を維持するという名目をもらって兵を入れた為、アークサイ公爵との間で小競り合いが起きたという。


 これに他の貴族や王都の民が激怒した。


 王都の外でやれ!


 と国内最大の人口を誇る王都である。


 そこに住む沢山の国民による大合唱が連日起きた為、王家は力を得て両者に、やるなら王都の外でせよと、命じた。


 本来なら王家が両者を処罰しなくてはいけないところだが、王都内に兵を入れる許可を与えた通り、王家は両者が実質的な力を持っている事を理解しているから断れずに許可を与えていた。


 だから、両者を糾弾するような命令だけは出せないのであった。


「それで西門の外で両者は衝突しているのですね?」


 カズマは執事の説明からそれを理解した。


「はい。今は休戦状態になっており、両者とも兵の半分を自領に戻しておりますが、いつまた、ぶつかるかわかりません。そうなると王家に対する信用はまたガタ落ちでしょうから、そうなる前に面会して第三の中立貴族勢力として王家を後押し出来れば、王家も力を得て両者に兵を引くようにご命令なされるかと思います」


「それにしても、そんなに王家は微妙な立場なんですか?」


「はい……。現在の第一王子は、本当は順番で言ったら三番目の王子なのですよ。最初の二人は病死と事故死で亡くなった事になっていますが、暗殺だと言われております。それをやったのがアークサイ公爵とホーンム侯爵の両勢力とみられています」


「王子を二人も!?」


「長男はアークサイ公爵、次男はホーンム侯爵の後ろ盾があったので、お互いがお互いの支持する王子を暗殺した感じですね。ですから今の第一王子は三番目の王子なのです。その王子も暗殺を恐れて王宮の奥に引きこもりがちで、その王子を巡っても両者は争っている状況です。現在の第一王子も両者に都合が悪ければ暗殺される立場なので、国王陛下も下手な事が言えないのが現状です」


 執事は王国の存亡が掛かっている事を臭わせた。


 さすがに直接カズマにその事を言うのは酷だと思って遠回しに現状だけ伝えた形だ。


「王国には王国騎士団があると思うのですが、そちらは機能していないのですか?」


 カズマはもっとな事を指摘した。


 それに王国騎士団は元々、両親である母セイラが団長を、父ランスロットが副団長だった組織だ。


 トップが変わったとはいえ、少しは期待出来ないのだろうかと思った。


「王都の王国騎士団は現在、北都王国騎士団と、南都王国騎士団という二つの組織に分かれています。北はアークサイ公爵、南はホーンム侯爵勢力の息のかかった者が団長を務めており、王家の指示より両者の言う事に従う状態です。王家の指示に現在従うのは近衛騎士団のみ。さすがにここには両勢力の影響は、まだ入っていない様子です」


「……なるほど。だから王子も王宮から出られないのですか」


「はい。逆に言えば、今は王宮内なら安全なので王家存亡の危機とまではいかないのですが、両者がその気になったらその可能性も否定できないので、王家を支持する第三勢力の有無で状況は劇的に変わると思います」


 執事はカズマの質問に答えていると少し興奮してしまったのか、カズマの重要性を説いてしまった。


「責任重大ですね。ははは……」


 カズマはそう答えると目の前の事に集中する。


 と言っても、自分は書状を渡して、王家から王家を支持する第三勢力として認めてもらえばいいだけだ。


 お互いに利がある話だし、王家も断る理由がないから、話はすぐまとまるだろう。


 それもこれもカズマが短期間で各貴族領を回って書状を持って説得したお陰であったが。


 カズマの存在は中立派貴族の生命線であった。


 アークサイ公爵、ホーンム侯爵両勢力は、中立派を分断して情報統制を行い、自分達の勢力に取り込む政策を行っていたから、まさかその隙を縫って第三勢力として集うなど想像していなかっただろう。


 それをカズマ一人が行い、王家への面会まで漕ぎ着けた。


 カズマは今回、関係者誰もが認める立役者である。


 もちろん、第三勢力の案はイヒトーダ伯爵が全体像を描き、ツヨカーン侯爵が盟主として動き、オーモス侯爵、ヘビン辺境伯がそれを支持し、アゼンダ子爵やドッチ男爵などの中立派有力貴族達が従う形だから、表向きの立役者とまではいかない。


 そういう意味では陰の立役者扱いだが、その重要性は上に立つ者達誰もが認めるものであった。

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