第52話 奇妙な縁
カズマは翌朝、ドッチ男爵の元を発つと、王都まで直行した。
これで全てが万事上手くいくと思うとカズマの気もはやったのだ。
いくらドッチ男爵領が王都に近いと言っても、王家直轄領が間にあるので馬でも数日は掛かるところだが、カズマは『霊体化』で先を急いで王都の手前まで来た。
なぜ手前かというと、王都の西門付近ではアークサイ公爵の軍とホーンム侯爵の軍が睨み合いを続けていたからだ。
本当ならそのまま王都に乗り込むところだが、さすが王都と言うべきか、強力な結界が張られており、『霊体化』のまま直接入る事は難しそうであった。
「……西門から入るのは難しいから、南門に回るでござる」
カズマは両者の軍を見下ろしてそう判断すると、南門に回る。
南門までの道は両者が勝手に設置した検問所が幅を利かせており、迷惑な話であったが、カズマは『霊体化』しているから、それには引っ掛かることなく南門まで無事回る事が出来た。
「子供の身でドッチ男爵領から来たのか!……正直、ここに来るまで大変だっただろう?王都内は比較的に安全だから安心しな。さすがに両者とも王都内で争う程馬鹿じゃない」
南門の門番はドッチ男爵領の身分証を提示すると心配してこっそり、そう教えてくれた。
「お気遣いありがとうございます。あ、ドッチ男爵の屋敷の位置はわかりますか?」
「ああ、それなら第二城壁内の東の貴族地区だな。このまま大通りを北に向かって第二城門の門番にその身分証を提示すれば入れるが、そこから第三城門に向かって進み、突き当りを右で──」
あらかじめ、ドッチ男爵からは位置は聞いていたのだが、それは西門から入ってのものだったから親切そうな門番に詳しく教えてもらうのであった。
「ありがとうございます!」
カズマは門番にお礼を言うと王都に入城する。
「……これは、想像以上に大きいところでござるな……」
カズマは王都の大通りの隅から第二城壁がある北方向を見て、思わずござる口調でそう漏らした。
視線の遠く先に第二城壁が見えるが、そこまでには大きな建物が多く並び、馬車もこれまで見た事もない数が走っている。
それらは煌びやかで通行人の一人一人も田舎者のカズマには上流階級の人間に見えてくるから不思議なものだ。
内乱が起きてるという割に、これだけ賑わっているのが不思議であったが、門番の言う通り、王都内の治安は悪くないようである。
「この世界で一番大きい都かもしれない……」
カズマは一時ポカンとしていたが、こうしてもいられない。
第二城壁を目指して、近くの乗合馬車を探す事にした。
本当なら、すぐに『霊体化』して第二城壁までひとっ飛びするところであったが、この王都内の結界が想像より強力そうだと感じていたので、自分の魔力の残量を考え、馬車での移動を選択する。
乗合馬車はすぐに見つかった。
南門付近という事もあり、移動の為に停留所に列が出来ていたのだ。
カズマもその列に並んで乗車を待つ。
「うん?……おい。お前まさか、カズマじゃないか?」
カズマの列の前を進んでいた男がふと後ろを振り返ってカズマを二度見すると、思い出したように声を掛けて来た。
「……?──あ!あの時の!お久し振りです。こんにちは」
カズマは最初すっかり忘れていたが、男の声と顔が一致した事で、頭の奥に残っていた記憶の断片を引きずり出す事に成功した。
それはこれまで、二回一緒に野宿をする機会があった自称、行商兼冒険者のキナイその人だった。
「無事だったか!……二度も一緒に野宿した仲だから、さすがに心配してたんだぞ?まさか、こんなところで会うとはな!この王都に用事があったのなら、一緒に旅しても良かったんじゃないか?」
キナイはカズマが訳アリとは理解していたが、子供の一人旅をさせる事には反対だったから、無事に出会えて安心するのであった。
「ははは。僕は寄り道していたので、一緒というわけにはいかなかったんです」
カズマはまさかの三度目の出会いがあると思っていなかったから、言い訳があまり思いつかず、そう答えた。
「それも含めての旅だろうよ!まぁ、本当に無事で良かった。王都は初めてか?何なら道案内してやるぞ?」
キナイはそう言いながら乗合馬車の順番が来て乗り込む。
カズマもその後ろについて馬車に乗り込んだ。
自然と隣に座ったから、カズマも答えた。
「行く先は決まっているので大丈夫ですよ。キナイさんはここにはやはり、お仕事ですか?」
カズマは話を逸らすように、キナイの話題に変えた。
「俺か?まあ、仕事だな。それもちょっと、報告して終わりだから、遠慮するな。初めての王都なら観光しないと勿体ないだろう?」
キナイはカズマを案内する気満々だ。
「……いや、本当に目的地は決まっているので……。それに、観光している暇もないです」
カズマはキナイの押しの強さにタジタジであったが、やはり断った。
「……そうか?仕方ねぇな。じゃあ、何かあったら、冒険者ギルド本部にキナイの名を出してくれ。そうしたら俺にも連絡が届くからな」
キナイは胸を叩いてみせる。
本当に行商人兼冒険者だったんだ……。
と内心驚くカズマであった。
しばらく馬車に揺られて、キナイの旅の話を聞いていたカズマであったが、第二城壁手前の停留所に到着すると二人共降りた。
「なんだ。降りるとこも一緒だったか。俺はここから西側だ。カズマは?」
「僕は、第二城壁を通過して東地区に用事です」
「……ああ。訳ありなのはわかっちゃいたが……、なるほど、それは急ぎだな。本当に困ったら声を掛けろよ?」
キナイは第二城壁内の東地区と聞いてすぐに貴族に用事だと察した。
そして、それ以上は深く聞かずにその場を立ち去るのであった。
「本当に縁がある人だったな……」
カズマは奇妙な縁のある行商人兼冒険者の背中を見送ると、門番に身分証を見せて第二城壁の南門を通過するのであった。
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