第48話 続・大岩の処理

 カズマはてっぺんで大岩を真っ二つに割ると、ふらつく足下の中、片方の大岩を手に触れたまま、脇差しでお腹を刺して『霊体化』した。


 それと同時に、大岩の片割れは突然石工職人達の視界から消える。


「!?」


 大岩が割れた事に喜ぶ石工職人達も、次の瞬間にはこの大岩の片方の喪失に身を見開いて唖然とした。


 誰もが驚き過ぎて声にならない。


「……どうなっている?」


 誰かがそう口にした瞬間であった。


 ズズン!


 消えた半分の大岩が、地響きを立てて峠の上の森に煙を立てて出現した。


 森からは突然出現した大岩に鳥が驚いて鳴き声と共に、飛び去って行く。


「……嘘だろ!?」


 峠の上を見上げた誰かが信じられない光景にそうつぶやくと、口を開けたまま凍り付く。


 他のものも大差なく同様で、それはオーモス侯爵領側の者達も同じであった。


 誰もが呆然としている中、もう一つの大岩もいつの間にか消えている。


 そして、また、峠の上の方で地響きがなり、半分になった大岩がフタコブラクダのように並んで出現したのであった。



 カズマはこれがもう限界であった。


 半分に割ったとはいえ、今のカズマの許容範囲を超える質量の大岩の移動で、魔力は限界であったし、魔力回復ポーションも底をついていたから、動けるどころではなかった。


 だからカズマは移動した大岩の上で寝転がって動けないのであった。


 そこに確認の為、時間をかけて峠の急斜面を登って来たヘビン辺境伯側の現場責任者が現れた。


「ここにいましたか!」


 現場責任者の男はカズマがいつまでも現れないから心配して探しに来たのだ。


「……疲れたので休んでます」


 カズマは格好がつかないとばかりに、横になったままの状態で軽口を叩く。


「はははっ!確かにこんな大岩を運んだら疲れますな!」


 現場責任者はカズマを抱き上げるとカズマをおんぶして、下まで降りるのであった。



 カズマは現責任者に背負われたまま、近くの休憩所のある場所まで運ばれた。


 そこで一晩ぐっすりと眠ってから翌朝の事である。


 オーモス侯爵側、ヘビン辺境伯側の現場責任者達が集まってカズマが起きてくるのを外で待っていた。


 カズマは寝ぼけ眼でベッドから降りると、表に出て顔を洗おうと扉を開けた。


 すると、大勢が待機していたので、思わず扉を締め直す。


 そして、見間違えたかなと思い、また、ゆっくり扉を開けるとやはりそこには大勢の人がカズマに視線を注いでいた。


「えっと、……僕……、でござるか?」


 大勢の人の一番前にいた現場責任者がその言葉に大きく頷く。


 そして、


「この少年が、オーモス侯爵領、ヘビン辺境伯領の道を再開通させた英雄だ!」


 と紹介する。


 そうすると、


「「「おお!」」」


 と大勢の石工職人達が歓声を上げて、その功績を称える。


「あんちゃん凄いな!」


「そんな小さな体で、どうやったのか知らないが、助かったぜ!」


「坊主、うちで働かないか、力持ちなんだろ?うちに向いてるぞ!」


 と、一部勧誘も混ざっていたが、その多くはカズマを絶賛して感謝するものであった。


 両領を行き来して商売している者も多いし、絶望的な大きさの岩に持久戦を覚悟した職人達もいたから、それをわずか一日で解決したカズマはまさに英雄であった。


「あはは……。あ、現場責任者の方。ヘビン辺境伯への報告書、書いてもらえます?」


 カズマは急いで戻って、ヘビン辺境伯に約束を守った事を証明しないといけないのだ。


「それはすでに、書き終わってここにありますよ」


 現場責任者は報告書をすでに用意してそれをカズマの目の前に提出して見せた。


「ほっ……。ありがとうございます。それでは僕はこれをヘビン辺境伯に届けますのですぐ出発しますね!」


 カズマは報告書を受け取るとお辞儀する。


「え、もうですか?今日一日休まれても誰も責めませんよ?」


 現場責任者はカズマへの感謝の宴を準備する気満々であった。


 それはオーモス領側も一緒だったから、カズマは止めようとする。


「いえ、ヘビン辺境伯とは三日で事を成し、戻ると伝えていたので今から行かないと間に合いません」


「ここからだと領都まで、移動だけで馬を飛ばして三日、いや、子供ならそれ以上かかりますよ!?」


 現場責任者は驚いてカズマの無茶を指摘した。


「だから急ぎなので、出ます」


 カズマはそう言うと、顔を洗うのを断念して休憩所に戻って扉を閉める。


 現場責任者はそれを追って、扉を開けると、カズマがリュックを背負ったまま、トイレに向かっていた。


「カズマ殿、私の報告書にはカズマ殿の活躍を記しておりますので、急がなくても領主様はきっと評価してくれますよ?」


 と、現場責任者は声を掛けた。


 カズマはそれに対して、手を振ると、


「それでは行ってきます」


 と答え、トイレに入り、扉を閉めた。


「カズマ殿、そっちはトイレですよ?」


 現場責任者は苦笑して、扉を開ける。


 すると、そこにカズマの姿はなく、全くの無人であった。


「き、消えた!?」


 現場責任者が驚く中、カズマは『霊体化』して浮遊しながら一路、領都ヘビンを目指す。


 そして、領都までの三日以上の道程をカズマは『霊体化』という高速移動を持って一日で達成して領都に辿り着くのであった。


 さすがにもう夕暮れ時であったが、一度、『霊体化』を解き、城門から入って結界を潜ると、また、すぐに『霊体化』して城館まで急ぐ。


 そして、カズマは城館の傍で『霊体化』を解き、すぐに門番に声をかけ、中に通してもらうのであった。

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