第47話 大岩の処理
カズマは掘っ立て小屋に入るとすぐさま『霊体化』してすぐに大岩の上まで辿り着き、下から死角になる裏側に降り立った。
そこで『霊体化』を解くと、今度は改めて大岩に触れてまた、脇差しをお腹に突き刺す。
するとそこにあった大岩が一瞬で視界から消えた。
現場責任者の兵士風の男は大岩付近に最後まで残っていたが、一瞬、大岩から視線を外した時に消えたものだから、その瞬間に気づかず、二度見、三度見してそこにあったはずの大岩がない事に驚いて目を擦る。
「ふぁ!?え!?……こ、これは一体!?」
その時であった。
そこから離れた峠上の広い場所で地響きを立てて大岩が出現する。
責任者はこれも出現した瞬間を見逃した。
音に反応してそちらをみたら、峠の上にいつの間にか大岩があるという状態だ。
「ど、どうなっている!?何が起こっているのだ!?」
責任者は発狂寸前で今、現場で起きている奇跡に混乱するのであった。
カズマは、大岩に触れたまま『霊体化』したのだが、その瞬間、カズマの中の魔力が一気に喪失するのをはっきりと感じた。
そして、移動しようと浮遊するとそれに合わせて魔力が消耗される。
重さはもちろん感じないが、魔力を大きく消耗するから遠くには移動できそうにないとカズマは理解した。
「どこか近くに運ぶでござる……」
カズマは浮遊して、峠から極力離れようとする。
そして、峠の上の広い場所まで行くと魔力が枯渇して、『霊体化』が解けた。
カズマは大岩の上で、魔力が底をついてぐったりとする。
だが、まだ、カズマの仕事は終わっていない。
もう一か所の大岩も移動しないといけないのだ。
「……ここが使いどころでござる」
カズマはそう考えるとイヒトーダ伯爵からもしもの時に使うよう言われていた魔力回復ポーションをリュックから取り出して飲み干す。
体内に魔力が戻ってくるのが、よくわかる。
だが、まだ、足りない。
カズマは貴重なポーションをもう一つ取り出して飲む。
それでやっと体内の魔力が満たされた感じがした。
「これは思っていたより大変だ……。こっちは一瞬で終わったから時間があるし、次のもっと大きな岩は別の方法を試そうか」
カズマは独りそうつぶやくと、また、『霊体化』して現場責任者のいる近くの掘っ立て小屋まで移動する。
そこで、『霊体化』を解くと、まだ、信じられない現実に動揺している現場責任者にカズマは声を掛けた。
「まずは一つ撤去できたので、働き手のみなさんに協力をお願いしていいですか?」
「は、はぁ!?……あ、すみません……。え?今、なんと?」
現場責任者はカズマの言葉にどうやら撤去したのはこの少年の力によるらしい事をその言葉から察して思わず聞き返す。
「資材の中に大きな金槌と長めのくさび、穴あけ用の杭、そしてロープがあると思うので、それらを持って次の大岩の下まで移動をお願いします」
「わ、わかりました!」
現場責任者はどちらにせよ、カズマの命令に従う事になっているから、目の前の奇跡のような光景もあり、素直に従う事にした。
現場責任者と石工職人達はカズマに言われるままに先程まであった大岩の辺りを驚きに包まれながら見つめ、通過する。
そして、峠の上の辺りに大岩が見えてそれを改めて驚き指差す。
「ここにあったものがあんなところに!」
「ど、どうなってるんだ!?」
「わ、わからんが、目の前の子供が移動させたという事らしいぞ?」
「そんなまさか!?」
「俺もよくわからんが、ともかく他にもこの先にもう一つ大岩があるらしいから、そこでどうやったのか確認しよう」
先頭を進む少年カズマの大きなリュックを背負った姿を見つめながら、石工職人達は次の大岩のある場所まで付き従って進むのであった。
現場に到着した一行は、カズマがロープを持って木陰に消えるので、不審に思った。
「どこに行ったんだ、あの坊主?」
「さぁ?……トイレかな?」
「とりあえず、戻ってくるのを待とう」
そんな事を言っていると、大岩の上から金属音が数度した。
その音に上を見ると、次の瞬間ロープが落ちてきて、目の前に垂れ下がった。
「!?」
現場責任者や石工職人達は驚いて改めて大岩の上を見ると、そこにはカズマが立っているのが見えた。
「ロープは大岩に打ち付けた杭に結び付けたので、誰か登って来て下さい」
カズマからの命令なので身の軽さに自信がある石工職人の一人がそれに従って上まで登ると、下から眺める限り、大岩の上で何か話している様子が窺えた。
しばらくすると、杭を打つ音が聞こえ、それから数本のロープがまだ、落ちて来て一つには金槌と杭を括るようにと上から命令された。
それに従って括ると、そのロープを上で石工職人が巻き上げる。
そして、今度は職人達も上がってくるようにとの事なので、他のロープを伝って数人の石工職人達も上に登っていく。
そこで、カズマが伝えたのが、大岩の層に沿って杭で穴を開けるというものであった。
層とは、文字通りの意味である。
岩には幾重もの層が積み重なって形を成していて、カズマはそれを石工職人に見てもらい、その層に沿って穴を開けるように伝えたのだ。
カズマの言葉に何人かの石工職人は、はっとした表情を浮かべる。
「ま、まさか……?」
「……なるほど、そういう事か……」
「いや、だがそんな事出来るのか?」
理由が分かった数人も半信半疑ながらカズマの目的を理解すると、上からロープで命綱を腰に結んで層に沿って杭で穴を開けながら降りていった。
この作業は夕暮れ時までかかったが、続きは明日にやるという事で、その傍で全員が野宿するのであった。
翌朝は、持ち込まれた携帯食料で簡単に食事を済ませると、前日の続きとばかりに杭で穴を開けたところにくさびを打ち込んでいく。
これはオーモス侯爵領の方の面も同じで大岩をぐるっと半周するように行われる。
そして、そのくさびが一番の頂上を残すだけになったところで、カズマはみんなを避難させた。
「大丈夫か?これが予想通りなら、頂上のくさびを深く打ち込むと上の奴は上から落下する危険性が高いぞ……」
石工職人の一人がそうつぶやくと、その役目を年端もゆかぬ子供に任せてしまった事に他の職人達も罪悪感を抱く。
だが、ともかく命令である。
現場責任者の指揮の元、全員が安全な場所まで移動した。
これはオーモス侯爵領側の職人達も同じである。
「それではやります!」
大岩の上からカズマの声が聞こえてきた。
そこへ、続いてくさびを金槌で打ち込む音が峠に響く。
何度鳴っただろうか?
石工職人達が緊張でつばを飲み込んだ時だった。
ぴしっ!
という音と共に大岩にひびが入り、そこから一気に大きな音を立てて真っ二つに割れた!
「「「おお!」」」
カズマの狙い通り、大岩が割れた事に驚き喜んだ石工職人達の歓声が峠に響き渡るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます