第42話 侯爵との面会
カズマは『霊体化』で、目的がよくわからないチンピラ達を回避して、城館に戻った。
途中、足の速い使用人をあっという間に追い抜いて、城門近くの木陰で『霊体化』を解く。
「逃げ足早いですね」
カズマは皮肉を込めて息を切らせて戻って来た使用人に声を掛けた。
「どうしてここに!?──あ、いや、私は助けを求めに走っただけですよ?ははは……」
使用人はバツが悪そうにそう言い訳をすると、一緒に城館に戻るのであった。
カズマは部屋に戻ると、早速、薬を持って『霊体化』する。
そして、オーモス侯爵の元に急いだ。
オーモス侯爵の寝所には丁度、治療の為だろう治癒士がオーモス侯爵に何度目かの解毒魔法と、治癒魔法を行っていた。
それで、少しは楽になったのだろう、オーモス侯爵が意識を取り戻し、重そうに瞼を開いた。
「……何日経った?」
「お目覚めになられましたか!い、一週間です、領主様!」
治癒士は意識を取り戻したオーモス侯爵に毒を盛られた日からだろう日数を答えた。
「……そうか。私はもう駄目かもしれん……。息子達を呼んでくれるか……」
オーモス侯爵はかなり苦しそうにしている。
治癒士も自分の魔法が一時的な効果しか発揮していない事がわかっていたのだろう。
オーモス侯爵の言葉に反論できない。
「そんな事はないですよ。この薬があれば大丈夫です」
カズマは治癒士が息子達を呼びに行ったら、オーモス侯爵に薬を飲ませる機会が無くなると思い、『霊体化』を解いて現れた。
「何だね君は?今は領主様治療の時間だぞ?誰がここに通したのかね?」
治癒士はいつの間にか現れたカズマがこっそり部屋に入ってきたと勘違いして、それを咎めた。
「治癒士の方、この薬は解毒薬です。それを確認してもらっていいですか?」
カズマは治癒士の言葉を無視して、薬の入った小瓶を示した。
「……だから、君を誰が通したのかね?」
「カンパス様の願いでここにいます」
カズマは治癒士の質問には微妙に答えているように聞こえる、嘘ではない答え方をした。
「……カンパスが?」
カンパスの名に、オーモス侯爵は反応した。
「はい。オーモス侯爵が飲まされた毒は特殊なものなので、通常の解毒魔法では快癒しません。御用達薬師でも見抜けなかったようですが、この解毒薬なら効果があると思います」
カズマはそう言うと、オーモス侯爵と治癒士の元に歩み寄って小瓶を見せた。
「そんな怪しいものを領主様に飲ませられるか!」
治癒士は当然の反応を示した。
「……よい。どちらにせよ、このままでは……、私も死ぬ事になる……。カンパスの事を信じよう……」
オーモス侯爵の言葉は絶対である。
治癒士は渋々、カズマから小瓶を受け取ると、まずは自分がその粉薬をひと舐めして毒でない事を確認すると、次にオーモス侯爵の口元に運びそのまま口に入れると、水を含ませる。
「あとは三回に分けて、朝、昼、晩に飲ませて下さい。それで治ると思います」
カズマは無事飲ませる事が出来た事を確認すると、安心する吐息をした。
「それでは僕は部屋に戻りますので、何かあった時はカンパス様を通してお呼びください」
カズマはそう続けて言うと、寝室から出て隣の部屋に移動する。
治癒士が、
「この薬はどこで手に入れたのかね?ちょっと待ちなさい!」
とカズマを追いかけて隣の部屋に行くとそこにはもう、カズマの姿は無いのであった。
翌日の朝。
こんこん。
城館の端にある小さい屋敷の扉がノックされた。
そこはカズマが滞在を許可されている場所である。
「はい」
カズマが扉を開けると、そこにはカンパスが立っていた。
「先程、父が目を覚ました。それで、私と君を呼んでいるそうだ」
「という事は、快方に向かっているみたいですね?良かった!」
カズマは狐につままれたような表情を浮かべるカンパスを気にする事無く、喜んで見せた。
「……君は一体何をしたんだ?」
カンパスは意味が分からないという顔をしている。
「カンパス様の父オーモス侯爵への思いに答えただけです。あとは僕の使命を果たす為でもありますが」
カズマは笑顔で答えると、丁度荷物をまとめていたリュックを背負う。
「それでは行きましょう!」
カズマは満面の笑みでカンパスに案内してくれるように促す。
「わ、わかった」
カンパスはこの銀髪を後ろで結ぶ赤い目の少年に促されるまま、父オーモス侯爵がいる寝室へと案内するのであった。
「──こちらが、ツヨカーン侯爵の使者を名乗る少年です」
カンパスは久しぶりに会う父オーモス侯爵に連れて来たカズマを紹介した。
「……昨日は助かったぞ、少年。……聞けばツヨカーン侯爵の使者だとか。今は病床に就く身だから、横になったままで失礼する」
オーモス侯爵は一晩で顔色が大分良くなっていた。
これなら、すぐ完治しそうだ。
「顔色がかなり良くなられているようで良かったです。ツヨカーン侯爵から預かった書状をお渡ししたいのですがよろしいでしょうか?」
「……もちろんだ、こっちへ」
カズマは書状を手にオーモス侯爵の枕元に近づく。
息子達二人は苦虫をかみ殺した表情で、カズマを睨んでいるが、それは無視した。
オーモス侯爵は書状を受け取ると、その場でカンパスに封蝋を外して開けさせ中身を確認する。
しばらく時間が経ち、オーモス侯爵は大きく息を吐いた。
「……すまんが、返事は後日で良いか?少し疲れた。──治癒士よ、例の薬を。──カンパス、使者をちゃんとした部屋に案内するように……」
オーモス侯爵はカズマの扱いについて息子達が言い合いをしていた事は、目の覚めた朝から聞かされて知っていたので、周囲に釘をさすように言った。
「はい!」
カンパスは勢いよく答えると、カズマを先導して新たな部屋に案内する。
廊下を歩きながらカンパスはカズマに話しかけた。
「ありがとう。そして、すまない。君が嘘をついていない事はわかっていたが、兄達に押し切られて扱いが悪くなっていた。なのに、父を救ってくれた。それも私の功という事にしてだ。お陰で父との面会も出来たし、無事を確認出来て良かった……」
カンパスは兄達によって、父オーモス侯爵に会えなかったどころか容態も知らされていなかったようだ。
「いえ、僕は僕の為に行動しただけです。それにカンパス様は信用できる方だと思ったのでその名を利用させてもらう形になりました」
カズマはふふふっと笑うと感謝に答えた。
「ところで、どうやって寝所には忍び込んだんだい?私でさえ入る事が出来ず、ずっと会えていなかったのに」
カンパスは一番の疑問を口にした。
「それは機密事項です」
カズマは答えると笑って誤魔化すのであった。
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