第41話 薬の入手

 幸いな事に、カズマは数日の間、城館に滞在する事が許される事になった。


 それは最初に応対してくれたオーモス侯爵と元使用人の妾の子として生まれ、その能力を買われて呼び寄せられたカンパスの働きかけが大きいようであった。


「すぐに追い出されると思ったけど、出入りできるのは大きいかな」


 カズマは城館内の外れにある小さい屋敷内を歩きながら、一人そう漏らした。


 そして、カズマは早速、城館を出て外に薬草を探しに行く事にした。


 傍には身の回りの世話と案内を言い渡されたという使用人が一人付いている。


 監視役なのは明らかだ。


 カズマは丁度いいので、その使用人に近くの薬草屋の場所を聞いた。


「薬草屋……ですか?──失礼ですが、何を目的としたものでしょうか?」


 使用人はあからさまにカズマを怪しんで質問を返してきた。


「毒消しなんですが、薬師に話を聞きながら実物を確認して購入したいのです」


「毒消し?……ならば、侯爵家御用達の薬草屋がありますのでそこに案内しましょう」


 使用人は一緒にいれば下手な事は出来ないだろうと思ったのか、承諾した。


「あ、出来れば御用達以外でお願いします」


「なぜでしょう?」


「そこが優秀ならすでに気づいて治療されていると思うので」


「?」


「とにかくそれ以外の薬草屋でお願いします」


「……わかりました。それでは私の知人が利用しているお店に案内しましょう」


 使用人は出来るだけ自分が知っているところがよいだろうと、街中の外れの通りにある薬草屋にカズマを案内した。


 そのお店は小さく立地から庶民相手に商売しているようだ。


 カズマは品揃えを心配したが、無ければ他を探せばよいかと開き直って入る。


 店内は、色んな薬草の臭いで鼻がおかしくなりそうであったが、カズマは鼻を抑えながらも周囲を見渡す。


 雑然と棚に乾燥させた薬草や、粉末にして袋に入れたもの、小さなガラス瓶に入れたものなどかなりの種類が置いてあった。


 中には埃を被っているものもあったから、効き目が怪しいのではないかと思ったりもしたが、そんな事を気にしている場合ではないからカズマは必死で探した。


 薬草屋の店主の老婆は子供のカズマが目を皿のようにして薬草の数々を見て回っているのに反し、子供の保護者と思われる男がその子供を監視するようにじっと見ている光景を奇異に感じた。


「探し物はなんだい?」


 老婆はカズマに声を掛けた。


「毒消し系の薬草を探しています」


「……ほう。誰か毒にも中ったか?その人の症状はわかるかい?」


「えっと──」


 カズマはオーモス侯爵の状態を思い出しながら店主に伝える。


「……そいつはまた……」


 店主はカズマの説明から思い当たる節があったのか答えようとしたが、カズマを監視する使用人の目が気になって、言葉を飲み込んだ。


 だが、それも一瞬で続けた。


「それはこの辺りでは入手困難な毒の症状に似ているね。私も久し振りに聞いたよ。……何よりその毒は、普通に生活していたら口にする事がないものと来ている」


 店主の老婆は暗に悪意を持って飲まされる以外そうそうありえない事をほのめかした。


 使用人はそれをわからず、「?」という顔をしている。


「その毒消し草はありますか?」


「それなら奥にあるよ。調合するから待ってなさい」


 老婆は使用された毒の種類から急いだ方が良さそうだと思ったのか、意外に身軽な動きで奥に引っ込む。


 使用人は気難しそうな店主の老婆の反応にいよいよ「?」となっていたが、怪しい薬ではなさそうだという事は理解した。


 奥の部屋から薬研と言われる細かく砕いたり粉末にする道具を使用する音が聞こえてくる。


 粉末化してくれているようだ。


 しばらくすると老婆が奥から粉末を入れた小瓶を持って戻って来た。


「これで大丈夫なはずだよ」


「それでは確認しますね」


 カズマはまず、能力「目利き」で確認した。


 毒消し薬の表示と、産地、製作者、そして高価、貴重という言葉と共に価格が表示される。


 カズマは念の為小瓶の栓を開けると手の平にパラパラと粉を落とし、それを舐める。


 これからオーモス侯爵に飲ませるつもりだから念の為の確認は必要だ。


 数百年前である前々世の味覚を思い出して振り返る。


「確かにあの時の味。ありがとうお婆さん。おいくらになりますか?」


 カズマは老婆が金貨一枚と答えると腰の革袋ではなく、懐に忍ばせていた小さい巾着を取り出すとそこには金貨が入っていた。


 それは緊急用だったのだろうが、カズマはそれを迷う事無く取り出すと、支払った。


「金貨一枚って、きっとぼったくられてますよ!?」


 監視役の使用人はそう指摘したが、カズマは首を振る。


「いえ、このお婆さんは正当な対価を求めただけです。これで命が救えるのだから、問題はありません」


 カズマはそう答えると、老婆に感謝の言葉を告げるとお店を後にするのであった。


 カズマと使用人が城館に戻る為、急ごうと歩を進めていると、突然立ち塞がる三人の男達が現れた。


「……門番に門前払いさせられていた方ですよね?」


 カズマは相手が誰かすぐに気づいて指摘した。


「大人しく一緒に来て貰おうか?色々と聞きたい事があるからな」


 カズマの監視役である使用人はすぐに危機感を感じ、巻き込まれたくないと思ったのだろう。


 カズマが答える間もなく、後ずさりすると走って逃げだした。


「は、早い……!」


 カズマは使用人の逃げ足を見て呆れを通り越して感心した。


「狙いはガキだ。あっちは放って置け!」


 門前払いの男はそう言うと、二人の男に合図する。


 男達は脅すように剣を抜いてチラつかせると、カズマを両方から囲むようににじり寄ってきた。


「今は相手している場合ではないです……」


 カズマはそう一言、告げると、武器収納から脇差しを取り出す。


 そして、鞘はそのまま武器収納に放るとお腹に突き刺す。


「「「!?」」」


 男達はカズマの咄嗟の行動に目を剥いて驚くが、次の瞬間姿を消した事で、さらに驚く。


「き、消えた!?」


 男達の驚きの声が響く中、カズマは城館へと『霊体化』してフワフワと飛んで戻るのであった。

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