第40話 会えない侯爵
中に通されたカズマは詰め所でしばらく待たされた。
そこへ兵士と一緒に若い男がやって来た。
「この子が、使者……ですか?」
若い男は門番に確認を取る。
「はい。言っている事に淀みがないですし、伝えた方が良いかと思いました」
門番はカズマのやり取りを振り返って伝えた。
「ふむ……。──で、君。君はオーモス侯爵の命を狙ってきた刺客かい?」
「いえ」
カズマは直球な質問に困惑する事無く答えた。
「……嘘は言ってない、か。でも、こういう子は本人が知らないうちに利用されている事もあるからなぁ……」
若い男はカズマの全身を見て疑いの言葉を口にする。
どうやら、何か能力でカズマが嘘を言っているかどうか確認したようだが、どんな能力かまではわからない。
「僕はイヒトーダ伯爵の元から使者として、ツヨカーン侯爵の元に行き、その足でこちらに参りました。アゼンダ子爵、ドッチ男爵とも会っています。目的は中立貴族の一致団結です」
カズマは嘘を見破れる相手なら逆に都合が良いと考え、正直にここまで来た経緯を簡潔に伝えた。
「……これも嘘を吐いていない、だと?……うーん。君はいくつ?──七歳!?よくそんな歳でここまで来れたね。連れはいないのかい?」
「ここまで、ずっと一人です」
「また、……嘘じゃない、か。どうなってるんだ?私の能力が壊れたのか?」
カズマはそれを試すように嘘を吐く事にした。
「オーモス侯爵を暗殺しに来ました。これで良いですか?」
「お、それは嘘だね!……わかった。さすがに信じよう。──この子を、いや、この使者を丁重に奥の部屋に案内してくれ。私は、オーモス侯爵の末っ子で、カンパスという。嘘を見破るのが取り柄だ、よろしく」
カンパスはそう言ってカズマと握手すると、兵士に部屋へ案内させるのであった。
それを遠目に見ている者がいた。
先に使者を名乗って門前払いされた男だ。
「何であんなガキが奥に通されて私は門前払いなのだ……!これでは私が無能扱いされてしまう……。いや、待てよ?あのガキが出て来たところを捕まえてどこの使者か吐かせれば、オーモス侯爵の動向がわかり、私の手柄になるかもしれん……」
男はそう考えると、人を集めるべく、街へと走るのであった。
カズマは貴賓室に通されたが、落ち着かずにいた。
扉の外には監視の人が立っているし、窓の外も同様だ。
どうやら嘘を見破る事が出来るらしいカンパスが言う程には信用されていないらしい。
まぁ、暗殺されかけたらしいから、警戒態勢になったいるのは仕方がないだろう。
だが、ただじっと声が掛かるのを待っているわけにもいかない。
情報集めは必要だろう。
幸い結界の内側には入れたので、結界内とはいえ『霊体化』ができないわけでもない。
魔力の消費こそ激しいが能力である『ブシは食わねどタカヨウジ』のお陰で困る程でもないから、カズマは早速、『霊体化』して城館内を探索する事にするのであった。
カズマはいつも通り脇差しをお腹に刺すと『霊体化』して壁をすり抜けていく。
隣の部屋は誰もいないようだ。
さらに隣の部屋へ。
そういう感じで、カズマは次々に部屋をすり抜けていき、誰か話している人達がいないか探して回る。
「メイドに使用人、兵士達。あまり大事な話をしてそうな人はいないでござるな」
カズマは『霊体化』中のお約束である、ござる口調でぶつぶつとつぶやきながら、次々と部屋を見て回っていると、先程の嘘を見破れるカンパスが誰かと口論になっているところに遭遇した。
「兄上!だから嘘は付いていない事は確認済みです!なぜ父上にとりなしてもらえないのですか!」
どうやら兄相手にカンパスは語気を強めているようだ。
「庶子の分際で気安く兄と呼ぶな!父上がお前を呼び寄せたのはその能力を高く買っただけの事。それ以上の意味はない。あまり調子に乗るな!」
「そうだ!暗殺未遂さえなければ、呼び寄せる理由もなかったのだ。大人しくしていろ!」
兄達と思われる二人の男性にカンパスの意見は聞いてもらえない様子であった。
「ふぅー……。──ですが、イヒトーダ伯爵もツヨカーン侯爵も立派な人物と聞いています。それらの使者を父上にとりなさず追い返すわけにはいかないでしょう」
カンパスは荒げてしまいそうな言葉を押さえつけて冷静にと自分に言い聞かせながら進言した。
「黙れ!決めるのは本家の我々兄弟だ。元使用人の妾の庶子が出しゃばるなと言っている」
「そうだ。それにそんな上級貴族の使者に七歳の子供を立てるわけがないではないか!きっと、その子供がそう信じ込まされているだけに過ぎない。それで父上に何かあったらどうするのだ!」
「ですが、私の能力ではあの使者は嘘を吐いておりません。書状だけでも受け取り、確認しなければいけません」
「直接渡すと言っているのだろう?そんな怪しい子供を今の父上に会わせられるわけが無いだろう!」
この腹違いの三兄弟の言い争いは平行線であった。
そして、この三人の言う内容通りなら、カズマはオーモス侯爵に直接会って書状を渡す事も出来なさそうだ。
カズマは、三人が言い争う頭上で少し考え込むと、他の状況も知りたくて別の部屋も見て回る事にした。
奥に進むと立派な扉がある。
どうやら、ここがオーモス侯爵の部屋なのかもしれない。
カズマは扉をすり抜け、中に入る。
まず、小さい部屋があった。
きっと、待合室だろう。
そして、奥に進むと、応接室などがあり、さらにその奥に寝室があった。
そこは部屋の奥に大きなベッドがあり、そこにオーモス侯爵と思われる男性が床に就いている。
顔色は病人のそれで、あまり容体が良いとは言えなさそうであった。
どうやら暗殺未遂がどういう形だったのかわからないが、オーモス侯爵の容態を悪くする程度には成功していたのかもしれない。
カズマはオーモス侯爵の顔色を窺った。
「これは、まさか毒でござるか?」
カズマは横たわるオーモス侯爵の顔色、瞳の大きさ、発疹、発汗などの症状からその可能性に気づいた。
「前々世で同じ症状で死にかけた同僚がいたでござるが、これなら解毒薬となる薬草も多分わかるでござる。医者は気づいていないのでござるか?」
カズマはこの世界の医療技術が進んでいない事は十分理解していたが、治療には魔法があるから医療技術があまり進歩しない現状も仕方ないところはあった。
単純な毒なら、『解毒』魔法で一発だからだ。
だが、特殊なものとなると、より高位のもの、もしくはそれ専用の特殊な魔法を開発しないと対応できない為、高位の医者でも治療が難しいところではある。
「仕方ない、僕が薬草を探して来てそれを飲ませるでござる」
カズマはそう決意すると、まずは待機場所である貴賓室に戻るのであった。
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