第21話 伯爵との面会

 父ランスロットの紹介でカズマはすぐにイヒトーダ伯爵と執務室で会う事になった。


「うちの息子のカズマです」


 父の紹介でカズマはイヒトーダ伯爵に礼儀正しくお辞儀をする。


「うむ。話は聞いたが、本当にまだ小さいが大丈夫か?」


 イヒトーダ伯爵の心配は当然だろう。


 これからやろうとしている事は、中立派を結束させ、アークサイ公爵とホーンム侯爵による内乱に一石を投じようというものだ。


 そんな重要な書状を子供に託して良いものかと思うのは当然であった。


 王都までの道のりには中立派の領地は、何か所ある。


 それらに一つ一つ書状を届けて返事をもらい、その後、それらを王都の王家に届けて結束するのながら、大の大人でも怖気づきそうな大役だ。


 それを七歳の子供に託そうとしているのだから、狂気の沙汰とも思えた。


「現状では、今のままではじり貧である事は伯爵様も承知でしょう。この子の能力なら、上手くいけば短時間でそれらを成し遂げる事も可能かと思います」


 父ランスロットは前日までの心配はどこへやら、自信を持って推薦した。


「お父さん。説明より、実際に見てもらった方が早いと思います」


 カズマはイヒトーダ伯爵が、迷っているのを察してそう告げた。


「そうだな。──伯爵、それではうちの子の能力をご確認ください」


 父ランスロットがそう告げると、カズマは引き収納から脇差しを取り出し、それを抜き放つ。


 イヒトーダ伯爵はその堂々とした様に少したじろぎ警戒したが、次の瞬間、目を見開いて固まった。


 カズマが自分のお腹に脇差しを突き刺したばかりか、その瞬間消えたからだ。


「なっ!?き、消えたぞ!?というかお腹に刃物を突き立てたように見えたが大丈夫なのかランスロット隊長!?」


 イヒトーダ伯爵はランスロット確認する。


 普通に考えて衝撃的なものを目撃したのだから当然の反応だろう。


「──カズマ、もういいぞ」


 父ランスロットは合図を送る。


 すると、カズマは伯爵の据わっていた執務室の椅子から一番遠い扉の傍で姿を現した。

「!?なんとも……、こんな能力があるのか……?──これは手品の類ではないのだな?」


 目の前で見せされても信じられないとばかりに、イヒトーダ伯爵はカズマをまじまじと見つめながら、質問する。


「はい。僕のスキル『ゴーストサムライ』の能力の一つ『霊体化』というものです。これなら、各地の検問所に引っ掛かる事なく通過できますし、第一、七歳の子供がそんな重要な手紙を持っているとは思わないと思います」


 子供のカズマが言う事で、イヒトーダ伯爵は思わず笑ってしまった。


 自分で子供と言いながら、その物言いはしっかりしているからだ。


「……確かに、これなら、書状の類が奪われる事もなさそうだ。しかし、やはり、子供である事に違いはない。子供から手渡されても説得力に欠ける……。いや、各届け先には私の関係者や知人友人などがいるところがほとんどだ。まずはそれら探してもらって手紙と共に書状を渡し、その手から各領主に届けてもらえばよいか……。もしくは、手ぶらの使者をこちらから出して、検問に引っ掛からずに通過、書状を相手に渡す時にこの子供から書状を渡してもらえばよいか!」


「伯爵様、手ぶらの使者の足に合わせての旅だと、時間が掛かります。息子の利点はその移動速度と、姿を消せる事。これを最大限に生かすには、直接渡すのがよろしいかと」


「直接?子供相手に素直に会ってくれるとは思えんぞ?」


「僕にはそれが可能です。──どうですか?」


 カズマは扉の傍でまた、『霊体化』すると、次の瞬間にはイヒトーダ伯爵の傍に現れて答えた。


「そうだった……。しかし、そんな便利な能力がこの世の中にあるのか?何かリスクがあってもおかしくないと思うが……?」


 イヒトーダ伯爵は子供であるカズマの負担を心配した。


「僕の『霊体化』は魔力が必要になります。ですから時々休憩もしくは、魔力回復の為のポーションを頂ければそれも克服できると思います」


 カズマはしっかりした口調で、伯爵の心配にも答える。


「ここから王都までの旅路だけでも、一か月近くかかる。それが他の中立派の領主のところに立ち寄ってだと、その倍は掛かるかもしれない。子供の負担は大きいと思うが大丈夫か?」


「先程も父が言いましたが、僕なら馬よりも早く移動できるので、時間はあまりかからないと思います。ただし、トラブルもあり得るので多少は時間を見てもらいたいところです」


 カズマは大人びた返答をする。


「ふむ……。では、全てを成して王都に辿り着くのに四十日くらいか?」


「それよりも短く済むように努力します」


 カズマは慎重に答えた。


 何も問題がなければ、半分以下の時間でいけるかもしれないとは思っていたが、伯爵の指摘通り、こちらは子供だから何が起きるかわからない。


 だから大言壮語もしていられないと思ったのだ。


「イヒトーダ伯爵、息子には何か不測の事態が起きた場合は、真っ直ぐに帰ってきてそれを知らせるように言っておりますが、それでよろしいでしょうか」


 父ランスロットはカズマの慎重な答えに付け足すように言った。


「もちろんだ、それで構わない。現状を打開するには、隊長の息子、──カズマだったな?に頼るしかない状態だからな。それでは必要なものを用意しよう。書状の類はすでに用意してあるから──」


 イヒトーダ伯爵はこのしっかりとしたカズマに頼る事を決定する事を決断すると、すぐに準備の為に動くのであった。

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