第12話 年上のお友達
霊体化を覚えたカズマは、早速、女湯を覗く……、という事は無かった。
母セイラが許すわけもないし、六歳のカズマにとって肉体に精神が引っ張られているところがあるから、そんな性欲は今のカズマには全く皆無であった。
日中、母セイラとは脇差しを用いての修練に励む事になった。
敵は子供も容赦なく斬る相手であるから、六歳の子供に真剣は危険などと言っている場合ではなくなったからだ。
カズマはこれまで普段、母セイラ相手には脇差しを用いた剣術ではなく、通常一般的な剣術に励んでいた。
脇差しでもカズマの体には合っていなかったからだ。
それで脇差しは素振り用だったが、それがこれまでとは大分勝手が違ってきた。
それは能力を覚えた事により、ステータスに少々の補正があり、力もそのお陰でアップしたのか重いはずの脇差しを振るうのが楽になったのだ。
だから、母セイラ相手の修練も目覚ましい成長を見せ、驚かれた。
「凄いわ、カズマ。これまではあなたのその独特な剣の構えと洗練された動きも体が追いついていなくてちぐはぐに映っていたのだけど、少しずつその動きの真の意味がお母さんにもよくわかってきたわ」
母セイラはカズマの居合による一振りの鋭さに感心した。
「ボクも少し、理想の動きに少しは近づけた気がするよ」
カズマも自分の体の動きの幼さに前々世のサムライ時代の経験が反映されず、苦心していたから少し満足する。
それほどまでにスキルにおけるステータス補正の影響は計り知れないものがあるという事なのだ。
もちろん、日々の鍛錬で成長はするのだが、それを無視してスキルによるステータス補正は各能力を底上げてしまうのだ。
確かに、スキルを発動できないと差別されて仕方がない程、差は歴然である。
カズマは今なら、自分を差別して見下していた子供達にも簡単に勝てるだろうと思うのだったが、今の自分には子供相手にしている暇はない。
いつ何時、命のやり取りがあるかもしれないのだ。
母セイラが傍にいるとはいえ、前回のように母以上の剣豪が挑んで来たら身を守る事もままならない。
足を引っ張らない為に、少しでも強くならなければならないのであった。
カズマの必死な形相での鍛錬は、近所の子供達を今まで以上に近づけなかった。
いや、一人の十歳の少女は違った。
その少女は、赤く長い髪を三つ編みにした青い目の綺麗な女の子であった。
名は、アン。
以前からナイツラウンド家に母セイラを慕って遊びに来ていたが、カズマが六歳になってからは他の子供達がカズマをいじめるようになった為、アンは近づかないようになっていた。
だが、最近、いじめっ子達がカズマに返り討ちにあい、敬遠するようになったのだ。
それでまた、アンはナイツラウンド家を訪れたのだが、いじめの時に避けていた申し訳なさから、直接訪問できずにいた。
だから、セイラとカズマの剣の鍛錬を遠目に見ながら、それを真似して棒切れを振っている。
そんなアンにセイラが声を掛けても良かったのだが、意外にアンまでの距離があり、よくこちらが見えるものだと感心する距離で棒を振っていたから、声をかけるのを迷うのであった。
多分、アンは何かのスキルのお陰で遠方がよく見えるのだろう。
能力的に『遠見』辺りではないかと思われるがそれは本人に聞いてみないとわからない。
一度母セイラがカズマに、「アンちゃんにこちらに来るか聞いてみなさい」と言われて遠い距離にいるアンを呼びに行ったが、それに気づいたアンは走って逃げて行った。
やはり、申し訳ない気持ちが強くて面と向かって話すのは恥ずかしいようであった。
そこでカズマは一計を案じる事にした。
『霊体化』を使って、近くまで行く事である。
母セイラにもそれを相談した。
「ふふふ。面白い事を考えたわね、カズマ。アンちゃんは悪い子ではないからあまり驚かせないようにするのよ?」
セイラの忠告を聞いて早速、カズマは脇差しを武器収納から取り出して鞘から抜くと、躊躇なくお腹に突き立てるのであった。
それを遠目に見ていたアンは「きゃっ!」と思わずかわいい声を上げた。
そして、次の瞬間にはカズマが消えているからアンは「え!?」と自分の目を疑う。
目を擦って自分の能力『遠見』でカズマの居たはずの場所を確認する。
そこにはセイラしかいない。
やはり、カズマが消えていなくなっていた。
アンが必死にカズマを探していると背後から、
「アンお姉ちゃん一緒にやろう。別に以前の事なんて気にしてないよ。お母さんもそう言ってるしさ?」
と聞き覚えのある声がした。
アンはまた、突然背後に気配と声がしたので「きゃっ!」と声を上げる。
振り返ったらそこにはカズマが立っていた。
「え!?いつの間に背後まで来たの!?消えてからここまでほとんど時間経っていないわよ?」
アンは逃げ出すのを忘れて、カズマに聞き返した。
「一緒に剣の練習するなら教えてあげてもいいよ?」
カズマはいたずらっ子の顔をすると勿体ぶって見せた。
「……セイラさん、怒ってない?」
「全然怒ってないよ」
「……カズマは?」
「僕も全然。というか怒るような事、アンお姉ちゃん全くしてないよ?」
カズマは何をいまさらという顔で、答えた。
「……ごめんね。私、勇気がなくて他の子達がカズマに強く当たってた時、庇えなかった……」
ずっと罪悪感でいっぱいだったアンは、許された安心からか、ぶわっと一気に涙目になると、謝った。
「わっ!泣かないでアンお姉ちゃん!」
女の涙に弱いカズマは慌てだした。
どう声を掛けて良いのかわからず、
「ほ、ほらアンお姉ちゃん!これが種明かし!」
と言うと、また、武器収納から脇差しを出してお腹に突き刺す。
「きゃー!」
涙目のアンもカズマのこの行動には悲鳴と共に、涙も引っ込んでギョッとした。
そして、どこにいるのかと左右を確認すると、目の前にポンとカズマが現れる。
「きゃっ!」
アンはもうカズマのこの一連の行動に、完全に泣くどころの話ではなくなるのであった。
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